真核細胞には、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官が存在しています。このミトコンドリアは、細胞とは違う独自の増殖機能・遺伝機構をもっていますが、同じ細胞内なのになぜ独立した動きをするのでしょうか? まるで別の生物のようです。ミトコンドリアを光学顕微鏡で観察すると、細菌に非常によく似ています。このため「ミトコンドリアって細菌なの?」と思う人も多いのではないでしょうか?
カリフォルニア大学で分子生物学の教鞭をとっていたアラン・ウィルソンは、このまるで別の生き物のような遺伝特性、すなわち、常にミトコンドリアは母親のもののみが子孫に性質を利用して人類の起源を探る研究を行い、なんと全地球上60億人はすべて共通のたった1人の女性(ミトコンドリア・イブ)から生まれたことを突き止めました。実際には固有の女性がイブなのではなく、時代とともにイブは変遷していくのですが、センセーショナルな報道だったので、多くの人がミトコンドリアの存在を知りました。
では実際にミトコンドリアは寄生虫で、進化の先に人類を含めた哺乳類が誕生する以前からわれわれの祖先の細胞と共生関係にあったのでしょうか? 35億年という生物の歴史の中で、地球上に酸素が存在し始めたときが、1つの危機的状況でした。それまで生きていた生物にとって、酸素は毒そのものだったのですから。このため生物が生き残っていくためには、体の中で酸素を消費し、細胞にエネルギーが供給していく仕組みが必要とされました。その仕組みをもっていた唯一の生物である好気性細菌は、酸素を無毒化できない生物に寄生し、共生関係をすることで共存していけるようになったのです。
また、進化が進むにつれ好気性細菌がもつ遺伝子は、一部を除いて共生関係にある生物の遺伝子を支配下に置くようになりました。こうして、われわれ哺乳類に通じる現在の真核細胞が誕生したと考えられています。このことから、ミトコンドリアはもともと別の生物、好気性細菌だったという「細胞内共生説」がほぼ認められています。ちなみに、この細胞内共生説においては、ミトコンドリアだけでなく、葉緑体、核、鞭毛なども同様に考えられています。葉緑体はらん藻、核はマイコプラズマ、鞭毛はスピロヘータ(らせん細菌)だそうです。