先ほども説明しましたが、核と呼ばれる場所に遺伝子が存在しています。この遺伝子はどういったものなのでしょうか?
1つの細胞には1つの核があります。細胞が2つに増えれば、当然、それぞれの細胞にも核があります。つまり、遺伝子は細胞分裂とともに増えるものでなければなりません。
では、遺伝子とはどういったものなのでしょうか。
細胞分裂の際に増える物質としては、かなり前から知られているものとして染色体と呼ばれる物質があります。そしてこの染色体に遺伝子を含むなんらかの遺伝情報があると考えられていました。やがて染色体の本体がDNA(デオキシリボ核酸の略)という長い高分子のひもであることが突き止められると、1つの疑問がわいてきます。なぜならDNAはたった4種類、すなわちA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)で構成された単純なものだからです。これが遺伝情報をもっていると考えるためには、遺伝子からつくられるタンパク質の構成成分であるアミノ酸:20種類を、たった4種類の塩基で区別できないといけません。はたしてそんなことは可能なおでしょうか?
実は、塩基は3つの組み合わせを考えると、単純に計算して4種類×4種類×4種類=64種類に対応できるようになるのです。ちなみに2つだと16種類ですから、アミノ酸すべてをカバーできません。
このようにわずか4種類の塩基で20種のアミノ酸を区別することは、十分可能なのです。
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸
グリシン | アラニン | バリン | ロイシン |
イソロシン | セリン | プロリン | トレオニン |
アスパラギン酸 | アスパラギン | グルタミン酸 | アルギニン |
ヒスチジン | リシン | システイン | グルタミン |
メチオニン | フェニルアラニン | チロシン | トリプトファン |
しかしまだ、どうやってDNAのコピーをつくって子孫に残しているのかという問題があります。
1953年、イギリスのケンブリッジ大学にいたジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックは、DNAが2重螺旋構造をしているというあまりにも美しくかつシンプルな事実を発表し、世界を驚かせました。この発表によって、DNAが螺旋を解いて各ひもから対をなすひもをつくり、新しい2本のDNAの2重螺旋構造ができる仕組みが解明されました。このように、親から子へ遺伝子が伝わる仕組みが解明され、DNAが遺伝情報になっていることは疑う余地のない事実といえます。