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ヒトゲノム計画

いろいろな動物のゲノム

投稿日:10/09/2015 更新日:


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1つの遺伝子を使い回す

 

 ヒトゲノムの概要版では、ヒトは3万~4万個の遺伝子をもつ、という推定になりました。全長が1mm足らずのセンチュウや、虫眼鏡がないと脚の数もわからないようなショウジョウバエ(以下ハエ)に比べても、2倍ほどの数字です。

 

 センチュウの体は、わずか1000個足らずの細胞でできています。細胞数が60兆個とされるヒトの体は、複雑さにおいてはけた違いで、機能まで考えたら遺伝子数に100倍の差があっても不思議ではないでしょう。一つの解釈は、ヒトでは1つの遺伝子を複数の目的に使っているというものです。

 

 たとえば、ハエでは雄になるか雌になるかは、同じ遺伝子のスプライシングの違いで決まります。上段のSxl遺伝子の3番目のエキソンには停止コドンがあるので、雌ではそれを外して1,2,4・・・8とスプライシングが進みます。雄ではそのまま1,2,3,4・・・8と進みます。雄の遺伝子産物は停止コドンのために機能を失いますが、雌の産物は次のtra遺伝子のスプライシングを雌型に変えます。それによってtra遺伝子の、停止コドンを含む第4エキソンを除去し、機能をもつ産物ができるのです。

 

 他方、雄ではそのまま1,2,3,4・・・と進むので、機能のある産物はできません。次の段階のdsx遺伝子でも雌と雄のスプライシングの違いが起き、最終的に雌と雄の性腺の分化が誘導されます。1つの遺伝子を使い回して複数の産物をつくるのは、十分にありうる話なのです。

 

 ハエなどに比べると、ヒトではずっと多くの遺伝子で、このようなメカニズムが使われているということです。このあたりはゲノムの塩基配列が最終的に高い精度で決まり、遺伝子がすべて明らかにされ、遺伝子産物の識別が進んで遺伝子との対応関係が明らかになるまで、結論をまたなければならないでしょう。

 

ヒトのゲノム、ハエのゲノム

 

 ヒトとセンチュウやハエとの比較では、発生の制御にかかわる線維芽細胞増殖因子が、ヒトでは30種類であるのに、ハエとセンチュウではそれぞれ2種類であったということです。細胞骨格にかかわるタンパク質も、ヒトではずいぶん複雑になっています。

ショウジョウバエ,スプライシング

 ヒトなど複雑な体制をもつ生き物では、たとえば上皮細胞も1種類ではなく、皮膚もあれば、口腔、食道や腸管、期間や肺、胆嚢や胆管、尿管や膀胱、尿道、血管の内腔など、きわめて多彩です。それらの構造をささえる仕掛けも、当然ながら複雑です。細胞間の情報伝達にかかわる遺伝子のグループも、ヒトで発達が目立つものの一つです。他方、細胞内の情報伝達にかかわる遺伝子については、ヒトとハエやセンチュウとの間に、ほとんど差がなかったということです。ヒトでは免疫など生体防御にかかわる遺伝子群の発達も目立ちました。

 

 ヒトで見つかった1262グループのタンパク質のうち、94種類だけが脊椎動物に特徴的なものだったのです。また、複雑な構造をもつヒトのタンパク質も、タンパク質の構造の基本単位であるドメインの種類は、ハエとセンチュウとほとんど差がなく、ヒトではより多くのドメインをさまざまに組み合わせることで、複雑なタンパク質をつくっていることがわかりました。

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 進化の過程で、まったく新しい遺伝子をつくり育てるのは、何億年もかかり成功率を低いでしょう。既存の遺伝子やその一部を組み合わせて、新しい機能をもつ遺伝子をつくるのは合理的です。

 

ヒトのゲノム、類人猿のゲノム

 

 脊椎動物ではマウスやチンパンジーなどでゲノムの概要がわかりました。

 

 そのうちで特に興味深いのは、脊椎動物の嗅覚にかかわる900ほどの遺伝子のうち、ヒトでは60%が壊れていた事実です。

 

 多くの動物にとって嗅覚は生きていくのに欠かせない機能ですが、猿人の時代から数百万年の進化の中で、ヒトは嗅覚を捨て、視覚や頭を使うことで生き延びてきたのでしょう。それをもつことが生存に有利でなければ、遺伝子は自然に壊れていくのです。

 

 類人猿やその他のサルに比べても、ヒトが高度な精神活動を行っていることは明らかです。他方、これまでにいくつかの遺伝子を調べたかぎりでは、ヒトとチンパンジーなどの類人猿の間では遺伝子の塩基配列の差が少なく、1~2%ほどでした。

 

 ただし、これまでの研究は、タンパク質を純粋な形で大量に集めやすいヘモグロビンとか、遺伝子が変化すると重い遺伝病になるような遺伝子でした。このような遺伝子が変化(突然変異)すると、その個体は重大な不利益を受けますので、突然変異が集団の中に定着するチャンスが低いのです。多くの種類の動物の間で、あまり差がないのは当然なのです。

 

 ゲノム計画が進んで、精神活動にかかわる遺伝子まで明らかになれば、差が見つかることが十分に考えられるのではないでしょうか。ヒトにもっとも近いチンパンジーのゲノム解析の結果も参考になります。

 

これから見つかる遺伝子

 

 ヒトの遺伝子の総数を3万と仮定すると、かなりの部分は機能がわかっていません。遺伝子カタログにでているのは2万ほどです。残りの遺伝子の中には、受精後の早い時期に働く遺伝子や、精神活動などにかかわる遺伝子がたくさんあると予想されます。

 

 前者のグループの遺伝子は、異常が起きると胎児(胎芽)が死滅して流産するため、これまで遺伝子の変化を調べる機会がなかったのです。後者のグループはこれまで、もっとも研究が遅れていた分野です。

 

 心の問題については「心と遺伝子」でもふれましたが、ゲノムの全体像が明らかになれば、研究が大きく進むでしょう。好奇心にかかわる遺伝子など、心の問題についての研究も動き始めています。

 

ハップマップ計画

 

 ヒトのゲノムにはさまざまな多型が含まれますが、SNPやマイクロサテライトなど多型のDNA、さらには染色体上のDNA多型の分布を明らかにすることが目的の「ハップマップ計画」が進められています。付近にある多数の遺伝子との位置関係にかかわる情報も得られるので、その領域にある遺伝子の伝わり方など、診断にかかわる重要な情報につながる可能性が大きいのです。DNA多型を使って、多くの病気の出生前診断などが実現するのではないでしょうか。

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