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ヒトゲノム計画

ヒトゲノム計画の背景

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メンデルの法則からDNAまで

 

 遺伝子研究の歴史をさかのぼれば、1865年のエンドウを使ったメンデルの法則の発見にたどりつきます。もっとも、メンデル(G.J.Mendel)の論文はまったく注目されず、1900年になって3人の研究者による“再発見”によって、ようやく日の目を見ましたが、まもなくギャロット(A.E.Garrod)により、ヒトのアルカプトン尿症が、メンデルの劣性遺伝の法則に従うことが明らかにされました。1920年代にはモルガン(T.H.Morgan)により、シュウジョウバエを使った遺伝子地図の作成も行われました。1930年代には、生化学レベルで爆発的な研究の発展がありました。1945年には、アカパンカビの研究から、ビードル(G.W.Beadle)により遺伝子一酵素説が提唱されています。

 

 1953年にはワトソン(D.J.Watson)とクリック(F.Crick)によるDNAの構造モデルの提案があり、遺伝子研究にとっての一大転機が訪れました。1965年には遺伝子暗号(コドン)が解明され、1972〜73年の組換えDNA技術の確立などにより、分子生物学の爆発的とも言える発展が起きました。ヘモグロビンなどタンパク質レベルの研究も進み、遺伝子の変化と病気の関係が明らかになりました。1985年には簡単に遺伝子を目で見ることができるPCRの技術も登場しました。この間に、大勢のノーベル賞の受賞者がでています。

 

DNAのコンティグとは?

 

 1980年代の前半には、電気泳動の技術でDNAの長さを測ることができるのは、2万塩基対(20kb)が限度でした。クローン化して増やせるDNAの長さも似たようなレベルでした。ウイルスや細菌のゲノムを扱うには十分ですが、30億塩基対に及ぶヒトゲノムを分析するのには不十分です。

 

 ゲノムの解明にあたっては、それぞれの染色体の全長をカバーするために、少しずつオーバーラップするように配列したDNAノクローンが必要です。形のうえで連続したDNAクローンの集合体を、コンティグと呼びます。

 

 しかし、最も短い21番や22番の染色体でも、全長は3500万塩基対ほどあります。5000や10000塩基対のクローンを並べて全長をカバーするひとつながりのコンティグをつくるのは、現実にはほとんど不可能です。

 

巨大なDNAの断片の扱い

 

 その後、100万塩基対レベルの長さのDNA断片を泳動できるパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)の技術ができ、また同レベルの大きさのDNAをクローン化できるベクターとして、酵母人工染色体(YAC)も開発されました。これなら単純にクローンの長さを計算すれば、35個で21番染色体の全長をカバーできるわけです。切れ目のないコンティグをつくるためには、全長の何倍かのDNAクローンを集める必要がありますが、10倍でも350個ですから、現実に可能なレベルです。

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 ちなみにPFGEは、通常の電気泳動では1方向に電圧をかけて泳動するのに対し、たとえば斜め右前方へ数分間、続いて左前方へ同じ時間、再び右前方へと、方向を切り替えながら長時間の泳動をすることで、巨大なDNAの長さの違いを検出する技術です。電圧をかける時間と方向は、コンピューターで制御します。

 

連鎖解析で病気の原因遺伝子を殺す

 

 また、多彩なDNA多型も見つかり、それを使って、病気の原因となっている遺伝子の場所を決める(マッピング)技術も開発されました。家系内を病気と同じ伝わり方をしているDNA多型がないか、片っ端から調べる“連鎖解析”です。病気と同じように伝わるということは、そのDNA多型と病気の原因遺伝子が同じ染色体に乗っているということです。このような関係を連鎖といいます。

 

 実際に、ベネズエラのハンチントン病の家系で、病気と同じ伝わり方をするDNA多型が見つかったのです。その結果、原因遺伝子が4番染色体の短腕にあることがわかりました。1983年のことです。これをきっかけに連鎖解析が盛んに行われ、ゲノム解析の有力な武器になりました。連鎖解析などによって、ある遺伝子の染色体上の位置を推定し、それを手掛かりとして遺伝子を探してクローン化する方法を、ポジショナルクローニングといいます。

 

なぜポジショナルクローニングか?

 

 従来、病気の原因遺伝子を解明するには、タンパク質の異常を見つけ、その情報に基づいて遺伝子をクローン化する方法が行われていました。

 

 ある程度の量の異常なタンパク質が得られる遺伝病については、原因遺伝子のクローン化がどんどん進みました。残ったのはタンパク質の量がきわめて少ないとか、不安定で壊れやすいもの、あるいはタンパク質の異常がわからないなどで、このアプローチが使えないものばかりです。

 

 そこで登場したのがポジショナルクローニングです。まず、連鎖解析などで病気の原因となる遺伝子の位置を推定し、その付近から遺伝子らしい構造を洗い出し、患者で異常が起きているのか否かを調べ、異常があれば原因遺伝子と推定するのです。遺伝子の位置の情報を手掛かりに、最後にタンパク質レベルの解析に進むので、従来の方法とは逆です。

 これらの情報によってヒトの遺伝子についての解析が大きく進みましたが、遺伝子の存在が確認または推定できたものは、1980年代には約3000種類、1985年に4000ほどでした。年に200ほどの遺伝子発見のペースですから、当時5万〜10万とされていたヒト遺伝子の全体像が明らかになるまでには、200年〜300年かかってしまします。ここれ一気にゲノム全体像を明らかにしよう、という運気が盛り上がったのです。

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