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遺伝子の傷〜突然変異〜

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遺伝子の欠失、挿入とフレームシフト

 

 まず、対立遺伝子の一つが、全長にわたって抜け落ちた状態があります。当然ながら機能が失われます。遺伝子の一部分が欠けても、同じ結果になります。欠失や部分欠失です。

 

 一見してわかるほどの欠失でなくとも、1塩基だけの欠失とか、逆に1塩基だけ遺伝子の内部に割り込む(挿入)ことがあります。遺伝情報は3塩基ずつのコドンのつながりでできています。それに従って、鎖のようにアミノ酸がつながったポリペプチド(タンパク質)の合成が行われます。1塩基または2塩基の欠失や挿入が起きると、3塩基ずつできているコドンの読み枠がずれてしまい、似ても似つかぬ遺伝子産物ができあがるのです。これをフレームシフトと呼びます。読み枠のずれ、という意味です。

 

 CAG・UGU・CGUと続けば、グルタミン・システイン・アルギニンというアミノ酸配列の情報ですが、たとえば最初のコドンの2文字目のAが抜けると、CGU・GUC・GU*となり、次の*がC,A,G,Uのいずれであっても、アルギニン・バリン・バリンという似ても似つかぬ情報に化けてしまうのです。

 

 しかも、この3つのアミノ酸だけでなく、後に続くすべてのコドンの読み枠が遺伝子の端までずれるので、非常に大きな影響があるのです。

 

 3塩基の欠失または挿入なら、その場所のアミノ酸が1個抜けるか加わるかだけの問題で、他の場所への影響はありません。その遺伝子の産物であるタンパク質のうちで機能的に重要な場所だと、強い影響がでますが、アミノ酸が1個増えても減っても、あまり影響のない場所も多いのです。

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アミノ酸の変化は影響に幅がある

 

 アミノ酸の置換もあります。DNAレベルで塩基が入れ替わって、コドンが変わったものです。たとえば、上の図で例に挙げたCAG・UGU・CGUのうち、最初のコドンの3文字目のGがCに変わると、対応するアミノ酸がグルタミンからヒスチジンに変わります。変わるのはそのアミノ酸だけで、2番目以下はまったく変化しません。これも前記の3塩基の挿入や欠失と同様に、フレームシフトに比べて影響が小さいのです。変化するアミノ酸の位置によって、影響が大きいことがあるのは、前記と同様です。

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 どのようなアミノ酸が変化すると影響が大きいのでしょうか。たとえばヘモグロビンなら、酸素分子の運搬に必要なヘム分子と、グロビン部分が結合する位置のアミノ酸は、変わると大きな影響があります。また、親水性のアミノ酸が疎水性にものと入れ替わると(逆も同じ)、しばしば機能に影響がでます。

 

 タンパク質が立体構造をつくっているとき、曲がり目にある小さなアミノ酸が大きなアミノ酸に変わると、曲がらなくなって機能が失われます。さまざまなメカニズムで影響がでますが、まったく影響が出ない場合も意外にあるのです。また、コドンの特に3文字目は、1文字目と2文字目が同じならなんでもよいことが多いのです。ただし次項のように、停止コドンに変わることで大きな影響がでることもあります。

 

塩基置換によるスプライシング異常、翻訳停止

 

 アミノ酸と関係のない塩基の置換であっても、エキソンとイントロンの境を指示している塩基が変化すると、スプライシングができずにエキソンがmRNAから消えるなど、大きな影響があります。

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 1塩基の変化によって、コドンが停止の信号にかわることもあります。UGGならトリプルファンなのに、1文字変わってUGAになると、翻訳停止の合図(停止コドン)になるのが例です。mRNAからアミノ酸への翻訳がそこで止まりますので、タンパク質しては尻切れトンボになります。翻訳がはじまってすぐのあたりですと、大きな欠失が起きたのと同じになります。

 

トリプレットリピート病とは?

 

 遺伝子の内部にある3塩基の反復配列の延長によって発生する病気もあります。いわゆるトリプレットリピート病です。たとえば、グルタミンを指示するCAGという3塩基(トリプレット)の繰り返し(リピート)回数が、正常ならたとえば30回ほどなのに、40回、50回などと延長しているのです。

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 ハンチントン病が例です。原因となる遺伝子の内部にあるCAG反復配列の延長によって、遺伝子産物であるハンチントンというタンパク質が大きく延長し、結果的に神経細胞の自殺が誘導されるのです。

 

 延長の程度によって、少なければ発病の年齢が遅く、大きいと早く発病することもわかっています。ほかにも筋緊張性ジストロフィーなど、さまざまな病気で同様な変化が見つかっています。

 

遺伝子の調節部分の変化

 

 ここまでは遺伝子のうち、いわば本体の問題ですが、遺伝子の調節にかかわるプロモーター部分の変化によっても、影響がでます。

 

 mRNAへの転写がはじまるためには、転写因子やRNAポリメラーゼ(RNA転写酵素)が、プロモーター部に結合して転写コンプレックス(転写複合体)をつくる必要があります。塩基配列の変化によっては結合が妨げられ、転写の効率が大きく下がるのが例です。

 

 なお、プロモーター部に、メチル化が起きると、遺伝子は休止しますが、メチル化の異常による病気も、実際に見つかっています。

 

大きな遺伝子、小さな遺伝子

 

 一般に、遺伝子の全長が大きいと、欠失の起きる確率が高くなるようです。これは直感的にも理解しやすいでしょう。アミノ酸の置換などは、その遺伝子のうちアミノ酸を指定している、エキソンの長さの合計に比例するのでしょう。巨大な遺伝子はイントロンの占める割合が大きく、エキソンの長さの合計は遺伝子の全長には比例しないのです。

 

 たとえばヒトの遺伝子のうちで最大の、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子は、全長が250万塩基対ほどありますが、エキソンは全体の0.6%を占めているだけです。他方、全長が20万塩基対の血友病Aの原因遺伝子では3%ほどで、4万塩基対強のLDL受容体の遺伝子では11%です。もっとも小さい遺伝子のうちには、エキソン1個だけでイントロンのないものもあります。全長の100%がエキソンです。

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 前記の3種類の遺伝子を見ると、4万塩基対のLDL受容体遺伝子のエキソンは4400塩基対ほどなのに、その5倍の長さのある血友病Aの原因遺伝子のエキソンの合計は6000塩基対ほどですから、1,4倍です。ジストロフィン遺伝子の全長はLDL受容体遺伝子に比べて62倍もありますが、エキソンの長さの合計は3.7倍です。遺伝子の全長に差があるほどには、エキソン部分の差はないのです。

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