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アレルギーとアトピー

 

 東京都の最近の調査によると、都民の20%がスギ花粉症に悩まされ、3歳児の42%がアレルギーやアトピー性の病気ということです。別の調査で、日本人の30%という数字もありました。まさに国民病です。

 

スギ花粉症は環境か?体質か?

 

 スギ花粉症に悩まされている人でも、スギのない南太平洋の島に引っ越せば、症状は消えるでしょう。では、アレルギーは環境だけの問題なのでしょうか。そうではありません。住民の20%がスギ花粉症なら、残る80%は平気ということです。花粉症になる体質の人と、そうでない人がいるのです。体質はその人の遺伝子の特徴ですから、花粉症は基本的には遺伝子の問題で、症状を引き起こす引き金にあたるのが環境(花粉)です。アレルギーは、遺伝子と環境の両方がかかわる多因子病なのです。

スギのない南の島に移住すれば、スギ花粉症の人もとりあえずは安心です。しかし、何年か暮らすうちには、熱帯植物の花粉に反応するようになるでしょう。ヨーロッパはどうでしょう。北欧ではシラカバ、バルカン地域ではシナノキが、それぞれ花粉症の主役です。引越しだけで花粉症と縁を切るのは、まったく不可能なのです。

 要するに、もともとアレルギー体質の人が、住んでいる土地に応じて、さまざまな花粉に反応しているのです。

 

免疫反応とアレルギー

 

生き物には、外から侵入する最近やウイルスなどを、殺したり無害化して体を守るための「免疫システム」があります。アレルギーは、たとえば花粉が鼻の粘膜についた時、有害なものと誤認してシステムが強い反応を起こすことで発生しているのです。

 スギの花粉は大きいので、そのままでは粘膜の内部に入れません。花粉から水溶性のタンパク質などが溶け出すと、粘膜の内部に染み込んで「抗原」として働き始めます。そこにスギ花粉に対応する抗体(免疫グロブリンE,IgE)をもつマスト細胞と呼ばれる細胞があると、活性化してヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質を放出します。

 近くの毛細血管が広がり、血管壁にすき間ができて水分が周囲に染み出すなどで、皮膚や粘膜などがふくらみ、鼻づまりにまります。神経の刺激でくしゃみがでますし、粘液の分泌により鼻水もでます。

 生まれて初めてスギ花粉に接したときには、マスト細胞にはスギ花粉に対する抗体がないので、何も起きません。侵入が何度か繰り返されると、スギ花粉に対する抗体ができて、マスト細胞にできるのです。 

 気管支に起きると、粘膜がはれ、さらに平滑筋の収縮も加わりますので、気管支が狭くなって呼吸が苦しくなります。喘息です。魚を食べて、蕁麻疹がでるのは、消化吸収された魚のタンパク質が、血流に乗って皮膚に届いたのです。魚に対する抗体をもつマスト細胞が皮膚にあると、前記の反応が起きます。なおアトピーは、アレルギーに比べて皮膚や粘膜の浅いところで反応が起きたもので、基本的にはアレルギーと同じものですが、アレルギーに比べると、わからないことが多く残っています。

アレルギー反応の仕組み

アレルギー体質はなぜ広まったか

 

 当人にとって有害無益とも思えるアレルギー体質が、なぜ進化の過程で広まったのでしょうか。アレルギー体質の人は、寄生虫に対して免疫系が激しく反応するので、寄生虫が住み着きにくいのです。食うや食わずで暮らしている原始時代の子供にとって、栄養を横取りする寄生虫は生死にかかわる問題でした。寄生虫が減れば生き残るチャンスが増えるので、アレルギー体質(の遺伝子)が広まったのです。

 マスト細胞の反応性には個人差があり、反応性が高ければさまざまなアレルギーを起こしやすいのです。アレルギーの主役である免疫グロブリンEをつくるのはBリンパ球ですが、インターロイキン4(IL-4)という物質はこれをつくりやすくし、インターロイキン12やインターフェロンγはつくりにくくすることがわかっています。つくりにくくする2種類の物質の遺伝子の働きが弱いか、IL-4の受容体が過敏だと、全般的にアレルギー反応を起こしやすいのです。

 

肥満と死の四重奏

 

 みなさんは「死の四重奏」という言葉をお聞きになったことがおありでしょうか。肥満には、糖尿病や高血圧、動脈硬化が伴いやすく、この4種がそろうと死につながるということです。肥満者では、胆石、痛風、大腸癌や男性の前立腺癌、女性の乳癌、子宮癌、卵巣癌なども増えます。免疫力の低下が風邪やインフルエンザなどへの抵抗力も落ちますし、体重の増加とともに、ひざの関節の故障も増えます。糖尿病や動脈硬化は、失明、血管障害による下股の切断、心筋梗塞、脳梗塞、腎臓の障害による透析なでにつながります。

 

体重はBMIで評価する

 

 体重はどのあたりが理想的でしょうか。判定にはBMI(body mass index)という値を使います。これは体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったものです。BMIを計算して22あたりなら理想的です。18から25の範囲なら正常。25を越えると肥満です。ちなみにBMIが22とは、身長170cmなら体重64kg、160cnなら56kg、155cmなら53kgほどに相当します。BMIが25なら、身長170cmで72kg、160cmなら64kg、155cmなら60kgほどに相当します。

 細身の若い女性が「自分は太っている」という強迫観念にとりつかれダイエットに走るのは、逆の意味で害があります。BMIが下がると、体は「栄養不足だから、ぎりぎり生きていくのに必要なこと以外には、いっさいエネルギーを使わない」という反応を起こします。排卵が止まって不妊になり、長期的には骨がもろくなる骨粗鬆症や、血管がもろくなり脳出血のリスクがあがるなど、さまざまな問題につながります。カメのように背の曲がったおばあさんを見ますが、骨粗鬆症です。ダイエットに励む女性は、将来あのような姿になりたいのでしょうか。

 食べ物が消化・吸収されることで体に入ったエネルギーは、まず体温の維持や呼吸、循環など生存のために使われます(基礎代謝)。運動や精神活動によってもエネルギーが消費され、余ったら脂肪などの形で体内に残ります。出入りのバランスがプラスなら太るし、マイナスなら痩せます。しかし、その過程にはさまざまな遺伝子の影響があるのです。

 

肥満にかかわる遺伝子

 

 レプチン遺伝子は、肥満にかかわる遺伝子のいわば総元締めです。レプチンは脂肪組織から分泌される一種のホルモンで、その受容体は脳の視床下部にあります。レプチンの信号を受けると、視床下部は食欲中枢に満腹という情報を伝えて食欲を減らし、交感神経を興奮させてエネルギー消費を増やします。レプチンは「体には十分に脂肪があるからもう食べるな。エネルギーもどんどん使え」というメッセージなのです。

 レプチンの下流にあたる遺伝子の例としては、神経ペプチドYの遺伝子があります。これはエネルギー消費を減らし、脂肪を蓄積しますが、レプチンはこの遺伝子を抑えます。POMC(メラノコルチン前駆体、通称ポムシー)の遺伝子は食欲を減らす働きがありますが、レプチンはこれを活性化します。POMCの働きに横やりを入れて食欲を増す、アグーチ関連ペプチドの遺伝子もあります。交感神経がエネルギー消費を増やす過程には、ベータ3アドレナリン受容体の遺伝子もあります。まさに多因子遺伝です。

 レプチン遺伝子の異常があると、これらの遺伝子の働きがすべて肥満へと向かいますので、高度の肥満になります。ただしレプチン遺伝子の異常はごくめずらしいものです。多くは下流の遺伝子だけが、さまざまな組み合わせで変化しているのです。遺伝子の欠損など完全な機能の消失ではなく、働きが少し弱いなどというレベルもあります。白人では肥満の原因の2〜4%をある型のメラノコルチン受容体の異常が占めるとか。レプチン遺伝子そのものの異常(BMI=32〜50)より、レプチン受容体の異常のほうが高度な肥満になる(同65〜71)、POMCの異常では同30強など、臨床に直結したデータも増えてきました。

 POMC遺伝子など食欲の問題なら、食欲を満足させながら体に入るカロリーは少ない「こんにゃく療法」が有効です。ベータ3アドレナリン受容体遺伝子の問題なら、カロリー消費を増やす運動が有効です。減量法も、遺伝子を見て選ぶ時代が始まるっているのです。

 

肥満と生活習慣の影響

 

 米国のアリゾナ州にピマインディアンが暮らしていますが、ほとんど全員が高度の肥満で、糖尿病の頻度も何十%のレベルです。肥満につながるなんらかの遺伝子の変化を、ほとんど全員が持っているのでしょう。長年にわたり特定の地域で孤立した生活を続けてきた部族は、遺伝的に大きく偏っている可能性が強いのです。中南米の先住民は、血液型がO型ばかりということを思い出してください。

 ところで、ピマインディアンは昔から太っていたのではありません。半ば砂漠のようなアリゾナの大地で、食うや食わずで生きてきたのです。第二次大戦後に、ハンバーガーだ、ポテトチップスだ、コーラだというアメリカ式の食生活の波が押し寄せました。インディアンの居留地には仕事もあまりないため、テレビを見る時間も増えたでしょう。そこで猛烈な勢いで肥満と糖尿病が広まったのです。

 遺伝的に肥満になりやすい人でも、朝から晩まで野山を駆け回り、わずかの食べ物を分け合って食べるような生活を続ける限り、肥満にはならないのです。BMIの高いかたはがんばってください。

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生活習慣病と遺伝子

 

 しばらく前に厚生省(現厚生労働省)が、成人病を生活習慣病と呼ぶことに決めました。生活習慣に注意しましょうとアピールするためですが、遺伝子から目をそらしてしまうという問題があります。これらはすべて多因子病で、遺伝子と環境の両方が原因です。

 遺伝子が原因と聞くと治療法がないという印象を持つかたが多いと思いますが、実は遺伝子を調べることで自分のリスクを知って発病を防いだり、遺伝子に合わせて治療法を選ぶ時代が近づいているのです。

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糖尿病と遺伝子

 

 まず糖尿病ですが、患者が全国で700万人、当人が気づいていない隠れ加えるとその2倍というのです。患者といってもひとつの病気ではなく、さまざまな原因によるものがあります。まず1型、2型、その他の3群に分かれます。1型はインスリン依存型(IDDM)とも呼ばれます。糖の代謝に欠かせないインスリンの分泌が少ないもので、子供の糖尿病はこの型が多いのです。2型はインスリン非依存型(NIDDM)で、患者の9割以上を占めます。成人に多い型で、インスリンはあるのに体の反応が悪いのです。3番目の「その他」は主に単一遺伝子病で、特殊なものです。

 遺伝子カタログでIDDMを検索すると関連する遺伝子が87もでてきますが、他の病気に糖尿を伴うなど、特殊なものも含まれています。それらを除き、IDDM1からIDDM18までの18種類が代表です。免疫にかかわるHLA(ヒト白血球抗原)や、インスリンの遺伝子が特に重要です。

 インスリンも対立遺伝子の片方が完全に機能を失うと、優性遺伝型の特殊な糖尿病になります。1型にかかわるのは、インスリン遺伝子の上流側にある反復配列の反復回数の差なのです。回数が少ないとインスリン遺伝子の活性がいくぶん低く、多いと活性が高いという個人差です。高ければもちろん、少し低くても問題はありません。

 膵臓のランゲルハンス島にあるベータ細胞では、インスリンがつくられています。ところがHLAが特定の型だと、自己抗体(自己の成分に反応する抗体)ができてベータ細胞が壊れるのです。ベータ細胞がたとえば3割壊れても、インスリン活性の高い人なら問題ないでしょう。もともと活性の低い人で3割壊れると、苦しくなります。ほかのIDDMがらみの遺伝子の働きも弱いとか、不摂生が加わると発病します。典型的な多因子病のパターンです。

 2型の糖尿病については、遺伝子レベルの研究は1型ほど進んでいませんが、それでも遺伝子カタログには200以上の遺伝子が登録されています。インスリンの効きが悪いのは、遺伝子のほかに、肥満や運動不足など生活習慣の問題もあります。膵臓の効きの悪さをカバーするために、大量のインスリンを作りますが、何年かのうちには疲れ果ててダウンします。したがって、2型でも末期には、インスリンの不足が起こるのです。2型もほとんどが多因子病です。

 なお、糖尿病は、失明や下股の切断、腎臓の機能損失など重大な合併症につながります。成人の失明も、腎臓障害による人工透析も、いちばん多い原因は糖尿病です。このような合併症は、必要な治療を受け、食生活に注意するなどして血糖値を低く保てば、避けることができます。

 あらかじめ自分は糖尿病のハイリスクと知って、生活習慣に注意することで発病を避けるのがベストの対応でしょう。

糖尿病

高血圧と遺伝子

 

 高血圧がらみの遺伝子は、遺伝子カタログになんと565種類もでています。最高血圧が160mmHg、あるいは最低血圧が95(以下、160/95と表記)を越えると高血圧という従来の基準では、患者が全国で1600万人とされていました。日本高血圧学会が2000年に提案した140/90を基準にすると、3700万人が当てはまるのです。国民の1/3が患者という基準はおかしい、という批判もあるそうです。

 それはともかく、血圧にかかわる遺伝子の一つであるアンギオテンシノーゲン遺伝子にはDNA多型があり、遺伝子産物の235番目のアミノ酸がトレオニン(T)だとし塩分に強く反応し、メチオニン(M)だと反応しないというのです。遺伝子型がTTやMTの人は、塩で血圧が上がりやすいのですが、逆に塩を減らせばすぐ血圧が下がります。MMの人は、塩を減らしても血圧は下がらないので、はじめから薬を使います。

 

がんの原因は遺伝子か?環境か?

 

 タバコを吸う人は肺癌のリスクが高く、広島、長崎の被爆者やチェルノブイリ事故の汚染地域の住人からは、甲状腺癌などさまざまな“がん”が発生しました。大気のオゾン層の破壊で地表に届く紫外線が増えると、皮膚癌も増えます。“がん”はほとんど環境の影響で起こるような感じですが、どうでしょうか。

 ちなみに皮膚のほか、食道、胃や腸など中空の器官の内面は、外胚葉性の上皮細胞で覆われています。上皮細胞にできた悪性の腫瘍性の病変が、がんです。中胚葉性の筋肉などにできるのが肉腫、血液や骨髄の白血球が悪性化したのが白血病、リンパ腺などのリンパ球が悪性化したのがリンパ腫です。これらをまとめて、悪性新生物あるいは“がん”と呼びます。

 

胃癌の家系と遺伝子

 

 ナポレオンは本人を含めて身内に胃癌の患者がたくさんいました。細胞同士の接着にかかわるカドヘリンの遺伝子が変化すると、家族性に胃癌が起こることがわかっています。ナポレオンの家系にこの遺伝子の変化があったか否か、遺体がわずかでも残っていれば調べることができますが、どうでしょうか。乳癌や大腸癌が多い家系もあります。家族性腫瘍です。

 身内にこれませ“がん”が見つかったことはなく、遺伝性が考えられない場合でも、調べてみると“がん”の細胞には遺伝子の変化が起きています。たとえば皮膚の細胞の1個に遺伝子の変化が起きて、その細胞が増えると皮膚癌になるので、がん細胞にはすべて遺伝子の変化がおきています。がんが大きくなり、性質が悪性になるにつれて、ほかの遺伝子の変化が加わります。

 ただし、体内のほかの細胞には変化がないので、当人がつくる精子や卵子はまったく正常です。当然ながら子供に伝わることはありません。遺伝子の変化はあるにせよ、遺伝病ではないので、「遺伝子病」と呼びます。

 

「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」

 

 “がん”にかかわる遺伝子には、「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」があります。前者が変化すると細胞は“がん”に向かって進みます。いわば発がんに向けて、車のアクセルのような働きをする遺伝子のグループです。たとえば、がん遺伝子が突然変異を起こすと細胞の増殖を加速します。RAS遺伝子の突然変異が有名です。

 がん遺伝子が、活発に働いている遺伝子の隣に移動する(相互転座:2本の染色体が互いに一部分を交換する)ことで、活性が高くなることもあります。相互転座した2本の染色体それぞれの切り口の近くに、片方にはがん遺伝子、他方には活発な遺伝子があるわけです。がん遺伝子そのもののコピーが増えることもあります。

相互転座

 がん抑制遺伝子は、細胞が勝手に分裂・増殖しないように抑える遺伝子で、いわばブレーキ役です。がん抑制遺伝子が機能を失うことも“がん”につながります。

 遺伝性の“がん”は、どのようなメカニズムでできるのでしょうか。一つはDNAの傷の修復にかかわる遺伝子の異常です。細胞分裂に際しては、1本のDNA(二本鎖)が複製により2本に増え、それが2つの細胞に分かれます。このとき、複製の誤りによって傷ができます。紫外線や放射線などの環境変異原によって、DNAに傷ができることもあります。

 細胞にはそのような傷を修復するメカニズムもあります。修復にかかわる遺伝子に異常がると、体内のあちこちの細胞にさまざまな遺伝子の傷がたまります。たまたま、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に傷ができた細胞から“がん”ができるのです。修復異常は劣性遺伝の形式で家系を伝わりますので、結果的に“がん”も同じ形式で伝わります。赤外線によってDNAにできた傷の修復ができない色素性乾皮症(数種類ある)が例です。

紫外線によるDNAの傷

家族性のがんー網膜芽細胞腫

 

 はんかしたがん抑制遺伝子やがん遺伝子が家系内を伝わっていても、遺伝性の“がん”になります。赤ちゃんの目にでいる網膜芽細胞腫(以下、網膜芽腫)の家族の例では、がん抑制遺伝子RB1の対立遺伝子の片方が機能を失っています。正常な対立遺伝子を+、機能を失った対立遺伝子を−とすると、正常な人は+/+です。患者は体内のすべての細胞が+/−です。患者から精子や卵子を通じて子に伝わるのは、+か−で半々です。+を受け取れば+/+で正常、−なら+/−で患者になります。つまりこの2人に1人が患者になる優性遺伝です。

 DNA複製に際しては、一定の割合で塩基の取り込みの誤りが起きます。患者の体内のすべての細胞が+/−であると、一定の確率で−/−に変化した細胞ができるのです。もちろん、遺伝子あたりで10万分の1といった低い確率ですが、赤ちゃんの網膜をつくる網膜芽細胞は200万個ほどありますので、−/−の細胞が10個や20個できても不思議はありません。−/−の細胞のそれぞれから網芽腫が発生しますので、遺伝性の網芽腫は両目にたくさんみつかるのです。遺伝性の+/−の人でも、片目だけに10個もあつまることがありますが、ごくごくめずらしいことです。

 正常な赤ちゃんは、体内の細胞がすべて+/+ですから、+/−の細胞がたとえ10個できても、網芽腫にはなりません。同じ細胞の対立遺伝子の両方が変化して−/−になると、その細胞から網芽腫が発生します。ただし、めったに起きることではないので、発生頻度は何万人に1人などと低いのです。ましてや、両目にできることはありえません。

 

そのほかの家族性のがん

 

 がん抑制遺伝子としてはAPC遺伝子もあります。APCの変化によって、まず大腸の多数の小さなポリープ(良性の腺腫)ができ、ポリープの細胞にほかの遺伝子の変化が加わるとがんに進むのです。結果的に家族性の大腸癌ということになります。この場合、APCの変化だけでは−/−でもポリープ止まりで、がんができるためにはほかの遺伝子の変化が加わる必要があるので、多因子遺伝です。

 がん抑制遺伝子の一つp53の変化では、ほとんどあらゆる種類の“がん”が家族性に起きるリー・フラウメニ症候群になります。RB1は主に網膜芽細胞の分化の段階で、APCは大腸の上皮細胞で、それぞれ重要な役割を果たしている遺伝子です。p53は、さまざまな種類の細胞で活動しているので、多彩な“がん”になるでしょう。

 なお、がん遺伝子の変化による家族性の“がん”もあります。RET遺伝子の変化が例で、甲状腺などさまざまな内分泌腺に“がん”を起こすのです(多内分泌腺腫瘍2型)。また、この遺伝子の異常によって、ヒルシュスプルング病という先天性の巨大結腸症も起きます。細胞や組織の分化にかかわる遺伝子の変化が“がん”につながるのは、ありえない話ではないのです。なお、前記のRB1は細胞周期の調節などにかかわっています。

遺伝性腫瘍 

 

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