人体を構成する細胞の特殊性とは?の記事一覧


Sponsered Link

 これまで受精卵という言葉を使って説明してきましたが、受精卵にはいったいどのような能力が備わっているのでしょうか?古くは、受精卵の中に子孫の雛形(小さな人の形をしもの)があらかじめ存在し、発生はそれが大きくなる過程であるという「前成説」が唱えられた時代もありました。しかし研究が進み、18世紀には、そのようなものが存在しないことが明らかとなり、発生が進むにつれて次第に形ができてくる後成説という考え方が生まれました。その後、顕微鏡を使用して細胞レベルの観察が行われるようになり、徐々に詳細が明らかになってきました。

 

 現在においては受精卵とは、卵生殖をする生物種の雌雄の配偶子である精子と卵が結合したもののことをいいます。精子が卵を保護している透明帯を呼ばれる卵黄膜に結合すると、精子頭部の先体胞内にあるさまざまなタンパク質分解酵素が放出されます(これを先体反応といいます)。このとき卵黄膜上にある精子の結合部分が分解されて、多くの精子が卵に結合するのを拒否できるようになると考えられています。こうして最初に結合した精子のみが受精できる状態となり、結合した精子はタンパク質分解酵素の作用で卵核に到達するための道をつくっていきます。やがて卵核に到達すると精核は卵核と合体して受精卵になります。このようにしてできた受精卵は、非対称性の細胞分裂を繰り返して胚となり、そこから生物の個体が発生していきます。個体のスタート地点であるといえるでしょう。

受精の仕組み

 さらに受精卵は個体のスタート地点であるばかりでなく、そこにははかりしれない能力があります。サイトのメインテーマである再生医療や細胞医療の研究は、この能力を利用した技術といっても過言ではありません。たとえば、偶然になんらかの原因で受精卵が2つに分かれてしまった場合、まったく同じ人間が2人できます。これが一卵性双生児になります。同じ原理で、一卵性の4つ子もアメリカで誕生し話題になりました。これらの事実は初めから初めからそこに4人いたという前成説だと比較的単純ですが、後成説、すなわち現在では、条件さえ整えば何人も同じ人間(クローン人間)になる能力を保っているという事実が明らかになってくるのです。


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?


 受精卵と生殖細胞。なんだか同じように聞こえますが、実はまったく違う細胞なのです。受精卵の特性であるたった1つの細胞からすべてのものが発生するため、受精卵の行う細胞分裂は非対称分裂であるとお話すましたが、生殖細胞はそのその生命の始まりの受精卵をつくる細胞になります。さらに生殖細胞の特異的なことは、生殖細胞は受精卵を形成した直後に次世代の生殖細胞をすでにつくってしまうことでしょう。厳密には生殖細胞と精子・卵子はまったく違いますが、将来の精子や卵子の中に含まれる遺伝情報は、生殖細胞に完全に規定され、言い換えると将来成人し、生殖器を迎えた私たちの精子や卵子のありさまはすでに受精卵の時点で決まっているという情味深い事実があります。では次にその様子を詳しくみていきましょう。

 

 将来の精子や卵子に変化する細胞は、それぞれ精原細胞卵原細胞と呼ばれ、始原生殖細胞に由来しています。この始原生殖細胞は、移動して性的に未分化な状態の生殖巣(精巣もしくは卵巣)に定着し、増殖して精原・卵原細胞へと分化します。その後、増殖を繰り返してそれぞれの細胞数を増加させます。やがてこれらの一部が減数分裂の準備気に入って一時精母・卵母細胞となり、長い休止期のあとに減数分裂を行います。減数分裂は、第一分裂と第二分裂の2つの分裂が連続して行われています。

Sponcsered Link

 

 精母細胞は第一分裂を行って二次精母細胞になります。二次精母細胞は第二分裂を行って精細胞になります。一方、一次卵母細胞は第一分裂を行って二次卵母細胞と第一極体になり、二次卵母細胞は第二分裂を行って卵細胞と第二極体になります。卵はいちじるしい不等分裂によって形成され、1個の卵原細胞から1個しかできません。

生殖細胞の形態形成

生殖細胞の形態形成生殖細胞の形態形成

 

 この減数分裂においては、第一分裂では染色体の数が半分になり、第二分裂では体細胞分裂と同じ過程をたどります。つまり生殖細胞は、最終的に染色体が半分、すなわち23本になった状態で存在しているのです。

 では受精卵はどうかというと、染色体は卵細胞と精子それぞれから受けとっているため46本(23対)です。そして受精卵は、初期段階で非対称性ではありますが、通常の細胞分裂を繰り返しています。


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?


 細胞分裂と聞くとみなさんはなにを思いだすでしょうか? ずっと以前に生物を習った方も、つい最近生物を学んだ方も、いま生物を学んでいる方も、細胞分裂とは細胞の核が2つになり、まったく同じ細胞(娘細胞)が2つできるという細胞分裂を連想するのではないでしょうか? 確かにその通りです。皮膚の細胞は分裂しても同じ2つの皮膚の細胞になりますし、骨の細胞も分裂したからといって、骨と肝臓ができるわけではありません。ちゃんと2つの骨の細胞に分裂します。これを対称性分裂といいます。

 

 しかし多細胞生物である動物の発生過程における細胞分裂は、まったく異なります。1個の受精卵がただ単純な細胞分裂を繰り返すだけなら、私たちの体は約60兆個の受精卵になるだけです。では、受精卵はどのような分裂をするのでしょうか?

 

 受精卵は卵割と呼ばれる細胞分裂を行います。通常は2細胞期に左右に、4細胞期に前後に、8細胞期に腹背に分かれます。このとき、卵黄が少ない動物極側のほうは細胞が小さくなります。

 

 このように卵割では、非対称性の細胞分裂を行っています。つまり、受精卵は単純な細胞分裂ではなく、少しずつ形を変える分裂(これを非対称分裂といいます)を繰り返しています。この現象がひいては、いろいろな役割をもった細胞や器官、臓器になっていくのです。

受精卵の卵割

 非対称分裂の先をもう少し見ていきましょう。ある程度細胞分裂が増えると内部に空洞ができ、その外側と内側は細胞に覆われた形になります。この時期のことを胞胚期(ほうはいき)といいますが、難しく考えず「ちくわ」を想像してください。「ちくわ」の外をおおっている細胞群を外胚葉といい、「ちくわ」の内をおおう細胞群を内胚葉といいます。その外胚葉からはおもに表皮と神経が、内胚葉からは消化管が形成されます。また、「ちくわ」の身の部分(外胚葉と内胚葉の隙間の入り込んだ細胞群)を中胚葉といいますが、ここからは筋肉や血管系などがつくられます。

胞胚形成 (胞胚形成)Gastrulation(原腸形成)

 このように受精卵は、非対称性の細胞分裂を繰り返したあと、形態を少しずつ変化させ、やがてそれぞれ異なった部位ごとに各器官へと分化していくのです。


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?


 生物は、単細胞生物から多細胞生物へと進化し、多細胞生物のなかでさらに高等生物へと進化してきました。そしてこのように進化してきた生物の歴史は、高等生物になっても発生の段階で引き継がれているようです。

 

 19世紀にドイツの生物学者であるエルンスト・ヘッケルは、「ある動物の受精から誕生までの発生過程は、その動物が進化してきた道のりをもう一度繰り返すかたちで行われる」という仮説を提唱しました(この仮説を「ヘッケルの反復説」といいます)。この仮説によれば、受精卵は単細胞段階を表すものと考えられ、卵割(らんかつ)によって細胞が増え、胞胚(ほうはい)から原腸陥入(げんちょうかんにゅう)によって消化管がつくられる過程を多細胞動物の進化の過程であるとみなし、これによって多細胞動物の進化の道筋を明らかにしようとしました。また、発生段階の胚は、魚の段階を経て、その後、両生類・爬虫類といった各進化の段階をたどって哺乳類へと進化していったと考えられました。

エルンスト・ヘッケル

220px-Ernst_Haeckel_2(写真:Wikipedia)

 ところがこのヘッケルの反復説は、数々の点で批判の対象になりました。それでもヘッケルの反復説は、今日の中学校や高校の教科書にも掲載されていることから、この仮説は非常に重要であるといえます。実際、この仮説を実験によって裏づけた研究者がいます。西原克成(にしはらかつなり)博士は、実験進化学という科学的手法を用いてサメを陸生動物に変化させることに成功することで、このヘッケルの反復説を証明しました。このようにヘッケルの反復説は進化を考えるうえで意義ある仮説であるといえます。

512px-haeckel_drawings(脊髄動物各群の発生過程)

 また、いまでも先天奇形の1つである鰓弓症候群(さいきゅうしょうこうぐん)という病気があります。鰓弓の「鰓」は「エラ」と読みます。魚の病気ではなく、れっきとした人間の病気です。ヘッケルの発生反復説にそった病気で、実際に発生の段階でいったん人間にできた「鰓」が残ってしまうという病気です。また「福乳・ミルクライン」といって、胸の乳首が6個ある女性もときどき生まれます。

 このことを踏まえて考えると、長い時間をかけて進化してきた生命の誕生は、1つの受精卵から誕生までの発生過程という、非常に短い時間に再現されているといえるでしょう。


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?


 私たちの体が約60兆個の細胞からできていることからも予想できるように、非常に多くの種類(200種類以上) の細胞が存在しています。そして、それぞれの細胞が独自の構造と機能をもっています。

 

 たとえば白血球は、ほかの細胞と結合することなく自由に移動し、細菌や有形汚物を取り入れて消化します。筋細胞は、互いにしっかりと結合し、収縮により機械的な力を生み出しています。また筋細胞は、骨格筋、平滑筋、心筋という3種の主要な型があり、それぞれの場所に見合った形態で存在しています。神経細胞は、電気信号を伝えて、大脳と脊髄の中枢神経系と、それ以外の体の部分との情報伝達を可能にしています。感覚細胞には、内耳の有毛細胞(ゆうもうさいぼう)と目の網膜中にある桿体細胞(かんたいさいぼう)があります。有毛細胞は、音の第一次検知器であり、音の振動に応じて動くことで電気シグナルを起こし脳に伝えます。桿体細胞は、光で電気シグナルを引き起こして目の神経細胞に伝え、脳へと中継されます。生殖細胞は、精子や卵といった種の保存に必須である重要な細胞です。脂肪細胞は、体の中でもっとも大きな細胞の1つで、脂肪の生産と貯蔵の役割をもっています。腺細胞(せんさいぼう)などのいくつかの細胞は、おもにホルモンや酵素などの物質を体内で合成したりしています。例として、膵臓(すいぞう)にあるインスリンをつくる細胞や口腔にある唾液をつくる細胞などもあります。

 

 このように自由に移動するものもあれば(浮遊細胞、非接着細胞)、まったく動かなかったり(実質臓器構成細胞、接着細胞)、ある制限の範囲でしか動けなかったり、信号の役目、貯蔵や生産の役目など、実にさまざまな細胞が存在しています。  

 ただ、もっとも驚異的な事実は、これらすべての細胞はたった1つの受精卵から発生したということです。多くの生命の受精卵は分割を繰り返すことによって、まず外胚葉(がいはいよう)、内胚葉(ないはいよう)、中胚葉(ちゅうはいよう)というおおまかな機能をもった3種類の細胞群(胚葉)に分かれます。さらにそおれぞれの胚葉から、もうすこし役割分担のかぎられた細胞群が生まれ、その細胞群からまた新たに、もっと役割分担のしぼられた細胞群が生まれます。こうして明らかに特化された機能をもつ臓器ができるのです。

受精卵から発生した人体を構成する細胞(受精卵から発生した人体を構成する細胞)


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?