生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞の記事一覧


Sponsered Link

 私たちは、約80年という寿命のもとで生活しています。やがてはみな死んでいくわけですが、生きているときも実は、細胞は毎日死んでいき、新しい細胞と入れ替わっています。このような細胞の死には、大きく分けて2種類存在しています。今回は、この細胞の死について書いていきます。

 

 細胞は、なんらかの不可逆的ダメージ(酸素の供給不足や物理的損傷)を受ける場合があります。そのような場合、細胞は徐々にふくらみ、ミトコンドリアがふくらんでやがて崩壊し、細胞膜が破れて中身が流れ出してしまい、細胞は死んでしまいます。このような細胞の死はネクローシスと呼ばれています。

 

 これに対して、なんらかのダメージを受けなくとも細胞がみずから死んでいくこともあり、これをアポトーシスと呼んでいます。人間界でいうところの事故死がネクローシス、自分の役割をすべて終えた後の自然死がアポトーシスと考えるとわかりやすいかもしれません。

 

 アポトーシスでは、細胞は縮んで核は凝縮し、細胞表面の微じゅう毛は消え、やがて核が断片化し、続いて細胞も断片化して大小の小胞になります。この過程は急速に進み、マクロファージなどの生体内で掃除の役割をしている細胞に取り込まれて除去されてしまいます。このようなアポトーシスと呼ばれる過程は、生体内ではひんぱんに行われています。たとえば、発生段階における動物の手は、最初水かきのような形をしていますが、発生段階が進むにつれてアポトーシスが生じ、指と指の間の細胞が死んでいきます。こうして指がつくられていくのです。このような場合では、細胞死は発生のあるきまった時期に起こるため、プログラム細胞死とも呼ばれています。

 アポトーシスは、上記の発生段階でみられるプログラム細胞死だけではなく、DNA修復速度の低下や、DNA分子の損傷増大によりDNA修復がDNA損傷の発生に追いつかなくなった場合、細胞自身が不可逆な休眠状態(細胞老化)になることでがん化という最終クライシスを回避する手段を選びますが、それでもがん化を回避できない場合の「切り札」としてアポトーシス(細胞の自殺)という現象が起こることも知られています。

01_02


iPS細胞について, 生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞


 遺伝子が生き残っていく(死なない)ためには、遺伝物質の正確さ、すなわち遺伝物質の化学的な安定性を高めていくことが必要です。これまで遺伝物質としては、DNA以外にタンパク質やRNAも考えられてきました。しかし高分子で、非常に多くの種類からなるタンパク質では、細胞に含まれるすべてのタンパク質の正確なコピーをつくって子孫に伝えていくことは、ほの不可能です。またRNAは、DNAに近い配列をもっているため遺伝物質として考えられる要素をもっています。実際、DNAでなくRNAをもつレトロウイルスなども現存しています。しかし、RNAは非常に不安定であり、物理的および化学的な分解を受けやすいという欠点があります。

f-DNAbasepair

 以上を踏まえると、生命が40億年の進化を経て獲得してきた仕組みのなかで、デオキシリボ核酸(DNA)という化学物質は、遺伝物質として非常に優れた物理化学的特性を備えているといえます。DNAの特徴を示すと次のようになります。

Sponcsered Link

 

1)DNAを構成する塩基は水酸基(OH)をもたないため、化学反応を受けにくい

 

2)DNAは2重螺旋構造のため安定した強固な構造である

 

3)アデニンとチミン、グアニンとシトシンの間で必ず水素結合をとるため、構造が安定化する

 

4)DNA鎖をコンパクトにして物理的切断を防ぐ

 

 このようにDNAは、自身を安定化させるために何重もの対策をとっています。

 

 しかしながら、いくら物理化科学的に優れた物質(DNA)であろうと、永久にその性質を保証するものではありません。死なないための遺伝子としてのDNAの決定的な戦略は、宇宙からやってくる紫外線、超新星爆発によるガンマ線やほかの生命体からの攻撃(毒素)により損傷を受けてしまったDNAを、①細胞内ですばやく検出することができるような形状に変化することと、②損傷によって変化し、失われた情報を修復するために、損傷を受けていないDNA(相補鎖DNA)をもとにつくりだされることなのです。

 

 ①と②は生命そのものです。ただ、生命が先に生まれ遺伝子の巧妙な戦略が生まれたのか。遺伝子の不死化の戦略のはてに生命が生まれたのかはわかりません。


iPS細胞について, 生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞


■エネルギー生産

 エネルギー生産における代謝には、生きるために必要なエネルギーを環境から取り入れることと、細胞を構築することの2つの目的があります。生物が環境から取り入れるエネルギーは光エネルギーと化学エネルギーだけですが、体内ではATPを用いて力学的エネルギー、電気エネルギー、光エネルギー、熱エネルギーをつくりだすことができます。

 

 生物が行う代謝には、発酵、呼吸、光合成、化学合成があります。発酵は、グルコースからビルビン酸に至る10段階の反応で、エムデン−マイエルホーフ経路と呼ばれています。呼吸は、エムデン−マイエルホーフ経路、クエン酸回路、呼吸鎖の3つの代謝からなり、エネルギー源であるATPが大量に生産されます。光合成は、二酸化炭素を取り込み、光エネルギーを化学エネルギーに変換します。化学合成は、硝化細菌や水素細菌などの特殊な菌がエネルギー獲得のために行っています。

image1-7

■タンパク製造

 遺伝情報をもとにして、①DNAを転写、②RNAへ翻訳を経てタンパク質が製造されると考えられています。以前は、この工程はセントラルドグマと呼ばれ、比較的シンプルな工程と考えられていましたが、現在では逆転写酵素の発見やRNA干渉という現象、RNAへ翻訳の前にスプライミングという過程が入ることなどが知られています。ただ、基本原理は現在でもセントラルドグマのままで大きな間違いはありません。  

 

 製造の流れですが、まず遺伝情報のうち必要なタンパク質をつくるための領域であるDNA塩基配列がRNAに伝えられます。この過程を転写①といい、このときのRNAはメッセンジャーRNA(mRNAと呼ばれています)で、細胞核から細胞質にでてタンパク質合成装置であるリボソームと一緒になります。そこにアミノ酸を運んでいるトランスファーRNA、tRNAがmRNAの3文字の対応する塩基配列で結合します。

 次にその隣の3文字に対応する塩基配列に、先程と同様にアミノ酸を運んでいるtRNAが結合します。この過程を翻訳②といいます。そして、隣り合うtRNAの運んでいるアミノ酸をつなげていきます。これを繰り返すことによって、遺伝情報に沿ったタンパク質が製造されます。


iPS細胞について, 生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞


 真核細胞には、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官が存在しています。このミトコンドリアは、細胞とは違う独自の増殖機能・遺伝機構をもっていますが、同じ細胞内なのになぜ独立した動きをするのでしょうか? まるで別の生物のようです。ミトコンドリアを光学顕微鏡で観察すると、細菌に非常によく似ています。このため「ミトコンドリアって細菌なの?」と思う人も多いのではないでしょうか?

 

 カリフォルニア大学で分子生物学の教鞭をとっていたアラン・ウィルソンは、このまるで別の生き物のような遺伝特性、すなわち、常にミトコンドリアは母親のもののみが子孫に性質を利用して人類の起源を探る研究を行い、なんと全地球上60億人はすべて共通のたった1人の女性(ミトコンドリア・イブ)から生まれたことを突き止めました。実際には固有の女性がイブなのではなく、時代とともにイブは変遷していくのですが、センセーショナルな報道だったので、多くの人がミトコンドリアの存在を知りました。

ap(写真:Wikipedia)

 では実際にミトコンドリアは寄生虫で、進化の先に人類を含めた哺乳類が誕生する以前からわれわれの祖先の細胞と共生関係にあったのでしょうか? 35億年という生物の歴史の中で、地球上に酸素が存在し始めたときが、1つの危機的状況でした。それまで生きていた生物にとって、酸素は毒そのものだったのですから。このため生物が生き残っていくためには、体の中で酸素を消費し、細胞にエネルギーが供給していく仕組みが必要とされました。その仕組みをもっていた唯一の生物である好気性細菌は、酸素を無毒化できない生物に寄生し、共生関係をすることで共存していけるようになったのです。

 また、進化が進むにつれ好気性細菌がもつ遺伝子は、一部を除いて共生関係にある生物の遺伝子を支配下に置くようになりました。こうして、われわれ哺乳類に通じる現在の真核細胞が誕生したと考えられています。このことから、ミトコンドリアはもともと別の生物、好気性細菌だったという「細胞内共生説」がほぼ認められています。ちなみに、この細胞内共生説においては、ミトコンドリアだけでなく、葉緑体、核、鞭毛なども同様に考えられています。葉緑体はらん藻、核はマイコプラズマ、鞭毛はスピロヘータ(らせん細菌)だそうです。

b14


iPS細胞について, 生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞


 原核細胞と真核細胞を区別する特徴の1つに、細胞内器官が高度に発達していることが挙げられます。細胞内器官としては、細胞核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体などがあります。では、これらの細胞内器官はどのように発達してきたのでしょうか?

 

 このことを考えるにあたり、進化をたどることのできる生物を調べてみましょう。ウロコムシやフジツボの体表に付着する微生物には、原始真核生物や、原核生物から真核生物へと進化する途中段階のものが存在します。これらを調べると、「細胞に小胞があるが、小胞体様の膜系をもたないもの」、「小胞と小胞体様の膜系が存在するもの」、「小胞体、小胞体様とミトコンドリア、不完全な核膜をもつもの」が存在しています。

 

 このことから、真核生物への進化における初期段階は、小胞の分化から始まります。その後、ミトコンドリアをもつ段階に至っても不完全な核膜が確認されていますので、核膜の発生は、細胞内膜系のなかでもかなり後半であることがわかりました。

 

 このことから次のような仮説が考えられます。タンパク質を取り込んだ小胞体の発達により情報やエネルギーの伝達が効率よくなり、細胞が大型化していくきっかけをつくりました。しかし、細胞が大型化していくと、現状のエネルギーの伝達では効率が悪くなり、より効率のよい仕組みを導入する必要性が生じました。そこで真核生物は、エネルギー効率のよりよい好気性細菌と共生する道を選び、現在のミトコンドリアが誕生しました。その後、細胞内器官はさらに発達し、遺伝情報が増大していったことから、その整理や保管を行うために核膜が形成されていきました。

 こうして、細胞内器官は発達していったのではないかと考えられています。

img_hightone04-2


iPS細胞について, 生命の基本単位である遺伝子と容器としての細胞