2015年10月の記事一覧


Sponsered Link

遺伝子の欠失、挿入とフレームシフト

 

 まず、対立遺伝子の一つが、全長にわたって抜け落ちた状態があります。当然ながら機能が失われます。遺伝子の一部分が欠けても、同じ結果になります。欠失や部分欠失です。

 

 一見してわかるほどの欠失でなくとも、1塩基だけの欠失とか、逆に1塩基だけ遺伝子の内部に割り込む(挿入)ことがあります。遺伝情報は3塩基ずつのコドンのつながりでできています。それに従って、鎖のようにアミノ酸がつながったポリペプチド(タンパク質)の合成が行われます。1塩基または2塩基の欠失や挿入が起きると、3塩基ずつできているコドンの読み枠がずれてしまい、似ても似つかぬ遺伝子産物ができあがるのです。これをフレームシフトと呼びます。読み枠のずれ、という意味です。

 

 CAG・UGU・CGUと続けば、グルタミン・システイン・アルギニンというアミノ酸配列の情報ですが、たとえば最初のコドンの2文字目のAが抜けると、CGU・GUC・GU*となり、次の*がC,A,G,Uのいずれであっても、アルギニン・バリン・バリンという似ても似つかぬ情報に化けてしまうのです。

 

 しかも、この3つのアミノ酸だけでなく、後に続くすべてのコドンの読み枠が遺伝子の端までずれるので、非常に大きな影響があるのです。

 

 3塩基の欠失または挿入なら、その場所のアミノ酸が1個抜けるか加わるかだけの問題で、他の場所への影響はありません。その遺伝子の産物であるタンパク質のうちで機能的に重要な場所だと、強い影響がでますが、アミノ酸が1個増えても減っても、あまり影響のない場所も多いのです。

image1 (3)

アミノ酸の変化は影響に幅がある

 

 アミノ酸の置換もあります。DNAレベルで塩基が入れ替わって、コドンが変わったものです。たとえば、上の図で例に挙げたCAG・UGU・CGUのうち、最初のコドンの3文字目のGがCに変わると、対応するアミノ酸がグルタミンからヒスチジンに変わります。変わるのはそのアミノ酸だけで、2番目以下はまったく変化しません。これも前記の3塩基の挿入や欠失と同様に、フレームシフトに比べて影響が小さいのです。変化するアミノ酸の位置によって、影響が大きいことがあるのは、前記と同様です。

image1 (1)

 どのようなアミノ酸が変化すると影響が大きいのでしょうか。たとえばヘモグロビンなら、酸素分子の運搬に必要なヘム分子と、グロビン部分が結合する位置のアミノ酸は、変わると大きな影響があります。また、親水性のアミノ酸が疎水性にものと入れ替わると(逆も同じ)、しばしば機能に影響がでます。

 

 タンパク質が立体構造をつくっているとき、曲がり目にある小さなアミノ酸が大きなアミノ酸に変わると、曲がらなくなって機能が失われます。さまざまなメカニズムで影響がでますが、まったく影響が出ない場合も意外にあるのです。また、コドンの特に3文字目は、1文字目と2文字目が同じならなんでもよいことが多いのです。ただし次項のように、停止コドンに変わることで大きな影響がでることもあります。

 

塩基置換によるスプライシング異常、翻訳停止

 

 アミノ酸と関係のない塩基の置換であっても、エキソンとイントロンの境を指示している塩基が変化すると、スプライシングができずにエキソンがmRNAから消えるなど、大きな影響があります。

image1 (4)

 1塩基の変化によって、コドンが停止の信号にかわることもあります。UGGならトリプルファンなのに、1文字変わってUGAになると、翻訳停止の合図(停止コドン)になるのが例です。mRNAからアミノ酸への翻訳がそこで止まりますので、タンパク質しては尻切れトンボになります。翻訳がはじまってすぐのあたりですと、大きな欠失が起きたのと同じになります。

 

トリプレットリピート病とは?

 

 遺伝子の内部にある3塩基の反復配列の延長によって発生する病気もあります。いわゆるトリプレットリピート病です。たとえば、グルタミンを指示するCAGという3塩基(トリプレット)の繰り返し(リピート)回数が、正常ならたとえば30回ほどなのに、40回、50回などと延長しているのです。

image1 (5)

 ハンチントン病が例です。原因となる遺伝子の内部にあるCAG反復配列の延長によって、遺伝子産物であるハンチントンというタンパク質が大きく延長し、結果的に神経細胞の自殺が誘導されるのです。

 

 延長の程度によって、少なければ発病の年齢が遅く、大きいと早く発病することもわかっています。ほかにも筋緊張性ジストロフィーなど、さまざまな病気で同様な変化が見つかっています。

 

遺伝子の調節部分の変化

 

 ここまでは遺伝子のうち、いわば本体の問題ですが、遺伝子の調節にかかわるプロモーター部分の変化によっても、影響がでます。

 

 mRNAへの転写がはじまるためには、転写因子やRNAポリメラーゼ(RNA転写酵素)が、プロモーター部に結合して転写コンプレックス(転写複合体)をつくる必要があります。塩基配列の変化によっては結合が妨げられ、転写の効率が大きく下がるのが例です。

 

 なお、プロモーター部に、メチル化が起きると、遺伝子は休止しますが、メチル化の異常による病気も、実際に見つかっています。

 

大きな遺伝子、小さな遺伝子

 

 一般に、遺伝子の全長が大きいと、欠失の起きる確率が高くなるようです。これは直感的にも理解しやすいでしょう。アミノ酸の置換などは、その遺伝子のうちアミノ酸を指定している、エキソンの長さの合計に比例するのでしょう。巨大な遺伝子はイントロンの占める割合が大きく、エキソンの長さの合計は遺伝子の全長には比例しないのです。

 

 たとえばヒトの遺伝子のうちで最大の、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因となるジストロフィン遺伝子は、全長が250万塩基対ほどありますが、エキソンは全体の0.6%を占めているだけです。他方、全長が20万塩基対の血友病Aの原因遺伝子では3%ほどで、4万塩基対強のLDL受容体の遺伝子では11%です。もっとも小さい遺伝子のうちには、エキソン1個だけでイントロンのないものもあります。全長の100%がエキソンです。

image1 (6)
 前記の3種類の遺伝子を見ると、4万塩基対のLDL受容体遺伝子のエキソンは4400塩基対ほどなのに、その5倍の長さのある血友病Aの原因遺伝子のエキソンの合計は6000塩基対ほどですから、1,4倍です。ジストロフィン遺伝子の全長はLDL受容体遺伝子に比べて62倍もありますが、エキソンの長さの合計は3.7倍です。遺伝子の全長に差があるほどには、エキソン部分の差はないのです。


遺伝子診断


ゲノムDNAにはさまe96まな多型がある

 

 ゲノムに含まれるDNAには、以外に個人差(DNA多型)が多いのです。まず、遺伝子はDNAの全長の5%以下であることを思い出してください。

 

 遺伝子の機能的に重要な部分の%5基については、変化するとそe81個体に異常が起きて子孫が残せないため、変化した遺伝子が集団から消えやすくなります。つeE3り、変化へのブレーキがあるのです。しかし、遺伝子以外の部分については、塩基が入れ替わっても悪影響がないので、どんどん変わります。ア%x3ノ酸を指定しているコドンも、3番目の塩基はどれ%Esも同じ場合が多いので、変わ%x2やすいのです。

 

 多型には1塩基が入れ替わったSNP、2塩基から数塩基ほどを単位に反復し、反復の回数に個人差があるマイクロサテライト、数十塩基ほどの区間が反復したミニサテライトなどがあります。

 

 Cバンド%Bsで強く染まる高度反復配列は、DNAレベルではむしろ調べるのが難しいのですが(10万回と13万回の反復の差というレベルなので)、C%Esンド濃染体の長さの個人差として、染色体レベルで見分けることができます。Y染色体の長腕%E遠位側や、1,9,16番染色体などの長腕の二次狭窄と呼ばれる部分、13〜15番と21,22番の短腕の長さの個人%5が、これにあたります。

 マイクロサテライト%Es、たとえば2塩基の反復部分をはさむ短い区間についてPCRを行えば、この人は8回と10回の組み合わせなどとわかります。8回反復の対立遺伝子と10回の対立遺伝子がある、というイメージです。ミニサテライトの検出には、PCRなどいくつかの方法が使われてい%Bす。DNAを目で見る技術について%F次の記事で紹介します。

Sponcsered Link

<pe3E 

SNPー1塩基の変%Euによる多型

 

 SNP(スニップ、一塩基多型)を検出する方法はいくつかe82ります。長いこと使われてき%9のがRFLP(制限酵素断片長の多型)で、制限酵素を使います。たとえ%EsEcoRIという制限酵素は、GAATTCという6%6字の配列を認識して切断しますが、どの1文字でも変わると切れません。つまり、切れるか切れないかという検出法です。<%rFp>

 

 6文字%9r認識する制限酵素のうちにも、%3まざまな塩基配列を認識するものがあります。また、4文字や8文字など、さまざまな長さや塩%9の組み合わせを認識する種類%xCあります。

 

 抽出したDNAを制限酵素で%x8ったのち、ゲルを使って電気泳動すると、切れないDNAは長いので移動の距離が短く、切れると短くなるために移動の距離が大e81い、という違いがみつかります。

 

 e9C近では、DNAチップを使ってSNPを%9出することも行われます。何千、何万というSNPを一度に調べられるのです。

 

 塩基配列がわかっているeE5所なら、PCRの技術も利用でき%Bす。多型を示す塩基の位置に、PRで複製の開始に使うプライマーeE3最後の1文字がくるようにしておくと、相補的ならDNA複製が先に進み、そうでなければ進めないことでSNPを検出するという、インベーダー法が例です。

<“r /> ゲノム解析にマイクロサテライト多型が活躍しe81ことは、「ヒトゲノム計画」でも説明しましたが、DNA多型は病気の%Ax断にも役立ちます。また個人差ですから、親子鑑定や犯人の識別などDNA鑑定にも、盛んに使わ%Esています。


その他


実現した個人のゲノム解析

 

これまでにご紹介したゲノム解析は、ヒトとして共通のゲノムの構造や特徴を明らかにするのが目的でした。ゲノムにはさまざまなDNA多型が含まれますが、これらは個人差でヒトとしての特徴ではないというイメージです。最近になって、ゲノム解析技術の進歩により、特定の個人についてゲノム全体の解析が可能になりました。もちろん、簡単な臨床検査のレベルではなく、大きな労力やコストがかかりますが、高名な学者や芸術家、政治家などのゲノムの特徴を調べることが可能になったのです。たとえば米国のスタンフォード大学では、5万ドルで個人のゲノム解析を引き受けているというのです。生存中の個人なら解析は可能ですが、すでに亡くなっている人については、凍結された状態で遺体の一部が残っていないと不可能です。いずれにせよ、ノーベル賞受賞者のゲノムの特徴などは、知りたいですね。一般の人々についても、心臓発作、さまざまな種類の“がん”、脳出血などのリスクがわかれば、予防につながる情報になりますが、かなり安くならないと普及は難しいです。


ヒトゲノム計画


1つの遺伝子を使い回す

 

 ヒトゲノムの概要版では、ヒトは3万~4万個の遺伝子をもつ、という推定になりました。全長が1mm足らずのセンチュウや、虫眼鏡がないと脚の数もわからないようなショウジョウバエ(以下ハエ)に比べても、2倍ほどの数字です。

 

 センチュウの体は、わずか1000個足らずの細胞でできています。細胞数が60兆個とされるヒトの体は、複雑さにおいてはけた違いで、機能まで考えたら遺伝子数に100倍の差があっても不思議ではないでしょう。一つの解釈は、ヒトでは1つの遺伝子を複数の目的に使っているというものです。

 

 たとえば、ハエでは雄になるか雌になるかは、同じ遺伝子のスプライシングの違いで決まります。上段のSxl遺伝子の3番目のエキソンには停止コドンがあるので、雌ではそれを外して1,2,4・・・8とスプライシングが進みます。雄ではそのまま1,2,3,4・・・8と進みます。雄の遺伝子産物は停止コドンのために機能を失いますが、雌の産物は次のtra遺伝子のスプライシングを雌型に変えます。それによってtra遺伝子の、停止コドンを含む第4エキソンを除去し、機能をもつ産物ができるのです。

 

 他方、雄ではそのまま1,2,3,4・・・と進むので、機能のある産物はできません。次の段階のdsx遺伝子でも雌と雄のスプライシングの違いが起き、最終的に雌と雄の性腺の分化が誘導されます。1つの遺伝子を使い回して複数の産物をつくるのは、十分にありうる話なのです。

 

 ハエなどに比べると、ヒトではずっと多くの遺伝子で、このようなメカニズムが使われているということです。このあたりはゲノムの塩基配列が最終的に高い精度で決まり、遺伝子がすべて明らかにされ、遺伝子産物の識別が進んで遺伝子との対応関係が明らかになるまで、結論をまたなければならないでしょう。

 

ヒトのゲノム、ハエのゲノム

 

 ヒトとセンチュウやハエとの比較では、発生の制御にかかわる線維芽細胞増殖因子が、ヒトでは30種類であるのに、ハエとセンチュウではそれぞれ2種類であったということです。細胞骨格にかかわるタンパク質も、ヒトではずいぶん複雑になっています。

ショウジョウバエ,スプライシング

 ヒトなど複雑な体制をもつ生き物では、たとえば上皮細胞も1種類ではなく、皮膚もあれば、口腔、食道や腸管、期間や肺、胆嚢や胆管、尿管や膀胱、尿道、血管の内腔など、きわめて多彩です。それらの構造をささえる仕掛けも、当然ながら複雑です。細胞間の情報伝達にかかわる遺伝子のグループも、ヒトで発達が目立つものの一つです。他方、細胞内の情報伝達にかかわる遺伝子については、ヒトとハエやセンチュウとの間に、ほとんど差がなかったということです。ヒトでは免疫など生体防御にかかわる遺伝子群の発達も目立ちました。

 

 ヒトで見つかった1262グループのタンパク質のうち、94種類だけが脊椎動物に特徴的なものだったのです。また、複雑な構造をもつヒトのタンパク質も、タンパク質の構造の基本単位であるドメインの種類は、ハエとセンチュウとほとんど差がなく、ヒトではより多くのドメインをさまざまに組み合わせることで、複雑なタンパク質をつくっていることがわかりました。

 

 進化の過程で、まったく新しい遺伝子をつくり育てるのは、何億年もかかり成功率を低いでしょう。既存の遺伝子やその一部を組み合わせて、新しい機能をもつ遺伝子をつくるのは合理的です。

 

ヒトのゲノム、類人猿のゲノム

 

 脊椎動物ではマウスやチンパンジーなどでゲノムの概要がわかりました。

 

 そのうちで特に興味深いのは、脊椎動物の嗅覚にかかわる900ほどの遺伝子のうち、ヒトでは60%が壊れていた事実です。

 

 多くの動物にとって嗅覚は生きていくのに欠かせない機能ですが、猿人の時代から数百万年の進化の中で、ヒトは嗅覚を捨て、視覚や頭を使うことで生き延びてきたのでしょう。それをもつことが生存に有利でなければ、遺伝子は自然に壊れていくのです。

 

 類人猿やその他のサルに比べても、ヒトが高度な精神活動を行っていることは明らかです。他方、これまでにいくつかの遺伝子を調べたかぎりでは、ヒトとチンパンジーなどの類人猿の間では遺伝子の塩基配列の差が少なく、1~2%ほどでした。

 

 ただし、これまでの研究は、タンパク質を純粋な形で大量に集めやすいヘモグロビンとか、遺伝子が変化すると重い遺伝病になるような遺伝子でした。このような遺伝子が変化(突然変異)すると、その個体は重大な不利益を受けますので、突然変異が集団の中に定着するチャンスが低いのです。多くの種類の動物の間で、あまり差がないのは当然なのです。

 

 ゲノム計画が進んで、精神活動にかかわる遺伝子まで明らかになれば、差が見つかることが十分に考えられるのではないでしょうか。ヒトにもっとも近いチンパンジーのゲノム解析の結果も参考になります。

 

これから見つかる遺伝子

 

 ヒトの遺伝子の総数を3万と仮定すると、かなりの部分は機能がわかっていません。遺伝子カタログにでているのは2万ほどです。残りの遺伝子の中には、受精後の早い時期に働く遺伝子や、精神活動などにかかわる遺伝子がたくさんあると予想されます。

 

 前者のグループの遺伝子は、異常が起きると胎児(胎芽)が死滅して流産するため、これまで遺伝子の変化を調べる機会がなかったのです。後者のグループはこれまで、もっとも研究が遅れていた分野です。

 

 心の問題については「心と遺伝子」でもふれましたが、ゲノムの全体像が明らかになれば、研究が大きく進むでしょう。好奇心にかかわる遺伝子など、心の問題についての研究も動き始めています。

 

ハップマップ計画

 

 ヒトのゲノムにはさまざまな多型が含まれますが、SNPやマイクロサテライトなど多型のDNA、さらには染色体上のDNA多型の分布を明らかにすることが目的の「ハップマップ計画」が進められています。付近にある多数の遺伝子との位置関係にかかわる情報も得られるので、その領域にある遺伝子の伝わり方など、診断にかかわる重要な情報につながる可能性が大きいのです。DNA多型を使って、多くの病気の出生前診断などが実現するのではないでしょうか。


ヒトゲノム計画


ヒトゲノムの全体像

 

 国際共同グループは、21番と22番染色体については、長腕のほぼ全長(99.7%など)にわたって正確な塩基配列を決めました。これらの染色体の短腕は短く、短腕側にはリボソームの遺伝子を除くと、高度に反復した配列(Cバンド陽性部)だけで遺伝子はまったくありません。ヘテロクロマチンです。あらかじめそれがわかっていたので、短腕側の分析をしなかったのです。

 

 ゲノムは全体で32億塩基対ほどであることがわかりました。そのうちからヘテロクロマチンを除いた真正クロマチンは、29.5億 塩基対ほどです。

 

ゲノムの塩基配列はここまで読めた

 

 明らかになった塩基配列のうち、ほぼ1/3にあたる10億塩基対については、塩基配列の解析を極めて高い精度(99.99%)で行っています。同じ区間について10程度のクローンのショットガン法による塩基配列決定を行い、結果を互いに照合したのです。残りの2/3はやや低い精度(90%ほどの精度の概要配列、一部はさらに精度の低い前概要配列)の結果です。

 

 塩基配列の結果については、我が国の2機関が合わせて全体のほぼ6%のデータを出しています。報告書では参加した20機関を寄与の大きい順に配列していますが、理化学研究所のゲノム科学総合研究センターは全体の6番目、慶応義塾大学医学部の分子生物学教室は15番目です。ただしこれらの2施設は、21番と22番染色体の詳細な解析について、中心的な役割を果たしました。なお2004年10月には、ゲノムの全長にわたる正確な塩基配列は発表されました。

image1 (10)

ヒトゲノムにはさまざまな反復配列が含まれている

 

 解析の結果、ゲノムのほぼ半分をさまざまな程度に反復した配列が占めていることがわかりました。ヘテロクロマチン部の高度反復配列はゲノムの1割足らずですが、真正クロマチンに含まれる反復配列はその倍数になります。反復の程度が低い分散型の反復配列で、SINEとかLINE(short/long interspersed element)などと呼ばれるものです。前者の一部は反復の単位ごとに1カ所ずつAluIという制限酵素で切れる場所をもつので、Alu配列と呼ばれることがあります。ヒトに特有の配列なので、他の動物のDNAとの識別に使えます。

ヒトゲノムの内容

 これらはレトロウイルスの逆転写酵素の活性によって、もとのDNAの配列コピーがあちこちに入り込んだものだという説があります。レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとし、それを逆転写酵素によって二本鎖DNAに変換して、感染した細胞のゲノムのほぼ21%、SINEが13%、レトロウイルスの特徴を残したレトロ転移因子が8%、その一部分だと思われる構造が3%です。

 

 レトロ転移因子は、レトロウイルスがもつ3種の遺伝子(gag,poj,env)をほぼ残していますので、割と最近(進化レベルで)レトロウイルスがゲノムに入り込んだのでしょう。不完全なレトロ転移因子は、入り込んだ時期がずっと古いために構造は崩れているものの、レトロウイルスの特徴がわずかに残っているものです。

 

 (CA)nなどのマイクロサテライトも、ゲノムの3%ほどを占めています。また、かなり大きな区間が、2回、3回など重複している部分も見つかりました。ヒトのゲノムは、かなり反復や重複が多いのです。

 

 解析が終了しているトラフグの遺伝子に、反復配列がほとんどないことがわかっています。フグは脊椎動物であるのに、ゲノムが哺乳類などに比べて小さいことから、研究の対象に選ばれたのですが、反復配列が少ないことが原因でした。遺伝子の数はヒトとあまり変わらず、21000ほどあるという報告がありました。

 

染色体上の遺伝子の分布

 

 遺伝子カタログには、20011年8月時点で20768種類の遺伝子が登録されていますが、そのうち19487種については、染色体上の遺伝子の場所がわかっています。X染色体上にはそのうち718種、Y染色体上には45種、ミトコンドリアにも65種の遺伝子が分布していますが、1から22番までの常染色体上には残る18659種の遺伝子が分布しています。同じ形と大きさの染色体でも、遺伝子の多いものと少ないものがあります。たとえば21と22番を見ると、前者には142種ですが、後者には323種の遺伝子が載っています。同様に13と14を比較すると、前者には240種、後者には409種の遺伝子が載っています。染色体上には遺伝子の密度の高い部分と低い部分があり、その割合が染色体によって違うのです。

 

 染色体を文染法と呼ばれるいくつかの方法で染めると、縦軸に沿って濃い部分と淡い部分が現れます。それぞれをバンド法と呼びますが、たとえばGバンド法で染めると、濃い部分には遺伝子が少なく、淡い部分は遺伝子密度が高いのです。前者には、SINEやィネなど反復配列も含まれています。上記の染色体のうち、13や21番は遺伝子密度が低いバンドが多く、14や22番は遺伝子密度が高いバンドが全体の多くを占めているのです。

 

 遺伝子がクローンかされていてDNAレベルの構造までわかっているものは、13000ほどです。残りはたとえばある種の聾唖が家系に繰り返し生まれたもので、関係する遺伝子があるはずだが、それ以上はわからないというレベルです。

 

 ところでゲノム解析の結果ですが、この段階では塩基配列によって遺伝子を拾い出すのは難しいです。アミノ酸の配列の情報を含む区間(ORF)とか、エキソンとイントロンの構造をもつなどで、遺伝子と推定される塩基配列をコンピュータープログラムで拾い出すのです。ただし、塩基配列が確定していないと、結果が怪しくなります。

 

 しかも、遺伝子産物がタンパク質ではなく、RNAのままで働く遺伝子は見落とされる可能性があります。タンパク質合成(翻訳)の際にアミノ酸を運ぶトランスファーRNA(tRNA)など、産物がRNAである遺伝子はいくつか知られていますが、X染色体上の不活性化を支配するXIST遺伝子など、RNAのままで働く遺伝子が、ほかにもまだ隠されている可能性があります。したがって、2004年10月の「タンパク質の情報をもつ遺伝子は2万~3万5千」という推定は、最低でもこれくらいという数字です。

 

 これらは塩基配列から見て遺伝子だろうというレベルで、機能のわからないものが大半です。どのような病気や性質とかかわっているのかわからないので、遺伝子カタログには載っていません。遺伝子カタログと、ゲノムの解析で見つかった遺伝子らしい構造、両者の対応関係がすべての遺伝子について明らかになるまで、最終的な遺伝子数はわからないでしょう。

 

 ちなみに、2000年5月にはほぼ全長にわたって完成配列が発表された21番染色体についても、その後さらに解析が進みます。新たに遺伝子と同定されたものは当初発表から10%ほども増えたとのことです。やはり詳しい解析によって新たな遺伝子が見つかると考えて、間違いないでしょう。その後、20番染色体についても21番、22番なみの詳しい解析が終わりました。

 

遺伝子の全体像が見えてくる

 

 たくさんの遺伝子を比べることで見えてきた情報もあります。遺伝子の活動の調節にかかわる転写因子に変化が起きると、出生前に影響が出て奇形などが生じる、酵素の異常だと出生から1歳までに発病する傾向がある、遺伝子の種類によっては異常があっても50歳すぎになって症状が出る、などというのが例です。

 

 新しく見つかった遺伝子は30ほどです。ある種の難聴、全色盲、筋ジストロフィーのうち肢帯型、神経系萎縮などの原因遺伝子が例です。

 

 以外に少ないという印象だと思いますが、概要配列やそれ以下のレベルでは遺伝子の識別がそもそも困難ですし、完成配列でも見つかった遺伝子らしい構造が病気の原因だと特定するには、患者でその遺伝子の変化を証明しなければなりません。まだまだゲノム解析は終わっていないのです。喘息やアルツハイマー病の治療薬の開発に役立ちそうな遺伝子も見つかりました。ゲノム創薬のターゲットです。

 

DNAの個人差(DNS多型)

 

 DNA多型についても、さまざまな情報が得られました。SNP(一塩基多型)だけでも140万種類が見つかったのです。

 

 遺伝子をここのエキソンに分けて見ると、エキソンの85%ではすぐ近く(5kb以内)にSNPがあるというのです。この距離ではエキソンとの間でキアズマが起きる可能性はゼロに近いので(100万塩基対で1%)、SNPを使って異常が起きたエキソンの追跡をすれば、キアズマによる誤診がほとんどないのです。

 

 エキソンの内部にあるSNPも、6万種類ほど見つかったようです。これも診断の目的にはピッタリです。

 

 DNAの多型には、SNP以外の種類もあります。1~9塩基を単位とする繰り返し回数の多型であるマイクロサテライト多型(たとえばTATATAの繰り返し回数の個人差)、繰り返し単位が10から100塩基ほどのミニサテライト多型が例です。これらもSNPと同様に診断に使えますが、たくさんの種類が見つかっています。また、これらは個人識別の有効な手段となっています。

maikurosateraito

突然変異は男性に多い

 

 なお、今回のゲノム研究によって、突然変異は主に男性で起きていることなどがわかりました。

 

 女児が生まれる時点で、卵巣内の卵子になる細胞は、減数分裂のうち第一分裂の途中まで進んでいて、そこで排卵まで待つのです。30歳で排卵される卵子なら30年です。そのため染色体の対の分離に問題が起きやすく、ダウン症など染色体の数の異常じゃ、女性側が原因のことが多いのです。

 

 他方、精子になる細胞は思春期以降はずっと細胞分裂による増殖、減数分裂、排出を繰り返します。そのため分裂回数が卵子に比べてけた違いに多いのです。それが男性側で突然変異が多い原因でしょう。DNA複製にあたって一定の確率で誤りが起こることは「DNAとゲノム、遺伝子」で紹介しました。

 

ヒトの遺伝子は10万個?

 

 話は戻りますが、ゲノムあたりの遺伝子の数については、ずいぶん昔に突然変異についての研究などから、「10万以上ではありえない」という説が提出されました。

 

 DNAの複製に際しては、世代あたりで遺伝子10万個に1回ほどの頻度で、突然変異が起きます。遺伝子が30万個もあると、すべての子は親から伝わる以上に加えて、3個ほどの新しい突然変異を背負いこむことになります。環境異変原による突然変異も、これに加わります。これでは種として存続できないが、毎世代に1個以内ならなんとかなるだろう、ということで遺伝子数の上限としてできたのが10万という数字です。

 

 いつのまにか数字がひとり歩きして、ヒトの遺伝子は10万という話になったのですが、あくまで上限です。

 

 遺伝子の数がわかっているショウジョウバエと体の構造を比べて、ヒトのほうが何倍くらいかは複雑だから・・・、と遺伝子の数を推定することも考えられますが、複雑さが何倍という数字を、みなが納得する形で出すのは難しいでしょう。とりあえずは3万~4万ということになります。


ヒトゲノム計画