2015年9月の記事一覧


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卵子と精子から伝わるゲノム

 母がつくった卵子(染色体数23)に、父の精子(同23)が合体(受精)することで、染色体数46の受精卵ができます。それが細胞分裂を繰り返すことで細胞数が増え、さらにさまざまな特徴や機能を持つように「分化」することで、赤ちゃんの体ができあがります。つまり、母から子に伝えられるのは卵子、父から子に伝えられるのは精子に含まれる遺伝子だけです。

 

卵子と精子に含まれるのは、1番から22番までほぼ大きさの順に番号がついた常染色体を1本ずつと、性染色体が1本です。常染色体は性にかかわらず、ヒトに共通な染色体です。それぞれの染色体には遺伝子が含まれています。

染色体の伝達

 父や母の体をつくっている細胞は、それぞれ46本の染色体を含んでいます。 性と関係ない常染色体は、男女とも22対44本です。性染色体は、男性はXとYが1ほんずつ、女性はXが2本です。専門家は、男性を46,XY、女性を46,XXと書きます。

 

 母はXXなので、卵子はすべてX染色体を含みますが、父はXYなので、精子はXを含むものと、Yを含むものが同数ずつです。X精子が受精するとXXで女の子、Y精子ならXYで男の子になります。

ヒトの染色体

 受精卵は1番から22番までの22対44本の常染色体と、XXまたはXYのいずれかの性染色体を含むので、46本に戻ります。

 

細胞の分化と遺伝子の働き

 受精卵から体ができるときの細胞分裂は、それぞれの染色体(二本鎖DNAを1本含む)がいわば2倍の太さになって、それが縦に2つに分かれることで、もとと同じ46本の染色体を含む細胞が2個できます。これを体細胞分裂と呼びます。

 

 1回の分裂で2倍ではたいしたことないような印象だと思いますが、2個が4個、4個が8個と増えていくと、n回の分裂後には2のn乗個になります。たとえば20回の分裂で100万個を超え、30回で10億、40回ではなんと1兆を越えるのです。成人の体が60兆個の細からできているとして、受精卵から数えて46回の分裂で足りる計算です。

 

 体細胞(体を構成している細胞、精子や卵子などは除く)は、体細胞分裂によって増えたのですから、すべて同じ染色体の組み合わせを含んでいます。染色体の中に含まれているのがDNAで、その上には遺伝子が点在しています。したがって60兆個の体細胞は、すべて同じ遺伝子を含むことになります。

 

 ある細胞は神経になり、別の細胞が目や皮膚になるという違いは、なぜ起きるのでしょうか。胎児期に、ある細胞で特定の遺伝子(群)が働くと、ある臓器や組織に分化します。要するに、働いてる遺伝子の組み合わせに差ができることが、分化のメカニズムなのです。成人の細胞では、大部分の遺伝子は休んでいて、ごく一部だけが働いています。ハウスキーピング遺伝子とは、どの細胞でも活動している遺伝子で、細胞の存在に欠かせないものです。組織や臓器の特徴的な機能は、組織特異的遺伝子の働きによっています。

 

さまざまなゲノム

 すでに説明したように、23本の染色体が親から子へと伝えられる遺伝情報の単位になっていますので、これをゲノムと呼びます。23本の染色体はもちろん、染色体中のDNAも、DNA上に散在する遺伝子も、23本分をまとめてゲノムと扱うのです。

 

 染色体数が48のチンパンジーやゴリラのゲノムは24本の染色体、染色体数38のネコのゲノムは19本の染色体でできています。マウスは20本です。最近はリング状のDNAが1個で、それがゲノムです。


遺伝とはなにか


身長とプロポーションは遺伝で決まる

 父親と息子を比べても、母親と娘を比べても、子のほうが親より背が高く、特にプロポーションはまったく違うというのが多くの方のイメージではないでしょうか。たしかにそのような親子をよく見かけますが、実はわが国の特殊事情なのです。欧米では、親子は身長もプロポーションもそっくり、というのが常識なのです。

 

 第2次大戦の末期から戦後にかけて、ほとんどの日本人は食うや食わずでした。アワやヒエの薄い雑炊に、道端の草やイモの茎を入れてなんとか飢えをしのいだ時代に育った世代は、栄養不足のために、遺伝子で決まっている限界まで伸びることができなかったのです。

 

 戦前はどうでしょう。食事はタンパク質が少ない傾向がありました。麦飯に味噌汁、漬物という組み合わせを基本に、年に何度か飼っているニワトリを食べるのがごちそう、というパターンは、農村ではあたりまえでした。育ち盛りの時期のタンパク質不足は、身長に影響します。

 

 では、栄養をよくすれば、身長はいくらでも伸びるのでしょうか。そうだというなら、ネズミの子をゾウの大きさに育ててみてください。そんなことは不可能です。栄養で変わるのは、身長の±数%くらいでしょう。双子の研究によっても、身長はほとんど遺伝で決まることがわかっています。

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 プロポーションは、身長によってほぼ決まりますが、長時間にわたって正座して、おけいこ事や勉強をするのは下股の成長にマイナスでしょう。タンパク質の豊富な十分な栄養と適度な運動が、遺伝子で決まっている限度いっぱいまで身長を伸ばすために必要です。椅子と机の生活が普及したのも成長にとってプラスです。これからは日本でも、身長やプロポーションがそっくりという親子の組み合わせが増えるでしょう。

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 欧米では30年前も50年前も、栄養状態や生活習慣が基本的に同じなのす。親子の身長やプロポーションが似ているのは当然です。

 

 ところで、体重は身長に比べると、生活習慣の影響が大きいのです。これは予想通りでしょう。

 

父親似と母親似とは?

 子の顔つきも当然ながら親に似ています。子は父と母からそれぞれ23本ずつの染色体を受け取りますから、両方に同じだけ似ているのです。父親似や母親似の子がいますが、たまたま鼻がとがっているとか、目が大きいとか、わかりやすい特徴が似ているだけです。耳の穴や胃の形が親に似ていてもだれも気づきません。

 

なお二重まぶた、強くちぢれた髪の毛、眉毛が外にむかって跳ね上がっている、などの特徴は優性遺伝ですので、伝わり方が目につきやすいでしょう。

 

初潮の時期を調べると、遺伝的にまったく同じ一卵性の双子では平均して2.8か月の差、他人同士の比較では18.6か月の差だったということです。母と娘の間にも平均して18.2か月違いがありましたが、母と娘は生きた時代が20年以上も違い、生活習慣やテレビなど目から入る刺激にも差があるため、双子や姉妹の比較とは意味が違います。母と娘は、遺伝的には50%の共通性がありますので(姉妹と同じ)、時代が同じなら、おそらく12か月ほどの差でしょう。

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 指紋も親子や同胞(兄弟姉妹)では互いによく似ていることがわかっています。利き手については、父が左利きである場合より、母が左利きのほうが子が左利きになる率が高い、というデータがあります。おそらく幼い時期に毎日接する母親の影響が強いためで、環境のせいでしょう。


遺伝とはなにか


 科学の発展にともなって私たち人類は多くのものを手に入れてきました。医学の分野では万能細胞(胚性幹細胞:ES細胞、人工多能性幹細胞:iPS細胞)を操り、髪の領域に足を踏み入れることも可能になったといっても過言ではありません。

 

 宇宙旅行、パソコン、携帯音楽プレイヤー・・・・・。貪欲なまでに私たちは不可能も可能にしてきました。その結果、私たちの生活は驚くほど快適に、しかも安全になりました。医学の分野も同じことがいえます。天から与えられた私たちの体を修理して(治して)使う、いわば古典的な医学ではなく、私たちの体そのものをつくってしまうという再生医療。

 

 得るものばかりで失ったのはほとんどなにもない生命科学の発展は、私たちにプラスのことばかりを与え、マイナスの要因などないように考えがちです。確かにその通りで、マイナスのことはあまり考えられないのも事実です。

 

 そのため最後に、私自身を含め、再生医療という新しい技術で私たちが失うものはないかを考えることも、もしかしたら必要かもしれません。


細胞を用いる医療とその可能性


 もともと、雌雄のある生物にとって生殖は、種の永遠性と多様性を確保するためのもの、もっとも有効かつ根源的なシステムです。そのため受精卵が分割して私たちの体になるのとは、まったく別のシステムで生殖細胞は用意されています。受精卵の半分が私たちの体になり、残り半分が原始生殖細胞として私たちの体の中にストックされるというイメージです。

 

 ストックされた原始生殖細胞は、時期がくる(思春期を過ぎるころ)まで冬眠しています。目覚めた原始生殖細胞は、私たちの体を構成する細胞とはまったく違う減数分裂という特徴的な分裂をします。

 

 通常、ヒトの細胞には46個の染色体が入っています。それぞれよく似た染色体同士2個が1対として存在するのです。46÷2=23対の染色体として存在しています(二倍体)。そして2つの生殖細胞が合体して1つの同じ2倍体となるためには、減数分裂をしないといけません。

受精卵,分化

 細胞の変化(分化)は、常に一方方向にしか進みません。図を見ていただくとわかると思いますが、受精卵だけが次の世代を残す原始生殖細胞に変化(分化)することができます。ただ、変化が少しでも進んんでしまえば、たとえばまだヒトの原型にもなっていない 3胚葉(内胚葉、外胚葉、中胚葉)になってしまえば、二度と生殖細胞に変化することはできません。そういった意味で、万能細胞の必要十分条件は生殖細胞をつくれる能力ということになります。

 

 実際に2011年8月、京都大学がマウスの原始生殖細胞をiPS細胞からつくることに成功し、その原始生殖細胞から精子を作製して体外受精で子孫をつくることに成功しています。生殖細胞がつくれるということは、男性から採取した細胞を起源とするiPS細胞から卵子をつくることができることを意味し、もちろんその逆も可能です。まさしく自然の摂理いん反し、人工的につくったiPSで子孫を残していくことができることを物語っています。

 男性がいなくても子孫が残せること。女性がいなくともキメラ生物の子宮を借りることで子孫を残せることを可能にするのが生殖細胞の創造であり、これがすなわち生命操作の究極といわれるゆえんです。


細胞を用いる医療とその可能性


 がんにおかされた臓器や、古くなった体のパーツは丸ごと取り換えるという非常にドラマチックなことも理論的には可能な再生医療。しかし現実的には、文部科学省が平成21年に策定した「iPS細胞研究ロードマップ」が1つの指標になるのではないでしょうか。そのなかでやはり単一の細胞だけで、ある程度結果がでる(治せる)病気やケガが当面の治療対策になっています。

 

 「iPS細胞研究ロードマップ」では11種類の細胞・組織が研究対象にあげられています。

 ①中枢神経系、特に脊髄損傷などにより半身不随となった患者や、アルツハイマーなどの神経細胞そのものに原因があり、神経細胞そのものを修復すれば病気・事故の治療となる可能性があります。

 ②角膜、③網膜色素上皮細胞、以前は暗膜のような効果だけもつ細胞と考えられていましたが、次の項目の視細胞に栄養を送ったりして縁の下の力もちように支えている細胞です。④視細胞、明るいところで色や形を識別する錐体細胞と暗闇の中で形を認識する桿体細胞の2種類の細胞です。

 ⑤⑥⑦造血幹細胞(血小板、赤血球)、血液の中の血漿以外のすべての個体成分である白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)や赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞になることのできる細胞です。

 ⑧心筋細胞、⑨骨、軟骨、⑩骨格筋、そして内胚葉系細胞(肝臓細胞、膵ベータ細胞など)、腎臓細胞、特に国民病ともいえる糖尿病は膵ベータ細胞でつくられるインスリン枯渇ですので、膵ベータ細胞を再生させることにより糖尿病の根本治療が可能です。

 

 1〜は、いずれも10年以内の臨床応用が見込める領域(細胞)です。

 今後、iPS細胞に付随した技術は、創薬やがん治療などの分野でますます進化していくでしょう。きっと倫理的な問題も解決され、いつの日か人間とブタのキメラ動物により臓器工場のテーラーメード人工臓器が完成されるようにもなるでしょう。がんなど不治の病も克服される日がくるでしょうし、それを受け入れる社会的土壌も整っているでしょう。しかし、われわれ人類はなにも変わらず、さらに新しい技術革新、新しい夢に向かって日々研究を続けているのではないでしょうか。

 平成21年〜5年後〜10年後
1、中枢神経系基礎研究前臨床研究臨床研究
2、角膜基礎研究前臨床研究臨床研究
3、網膜色素上皮細胞基礎研究・前臨床研究臨床研究
4、視細胞基礎研究・前臨床研究臨床研究
5、血小板基礎研究・前臨床研究臨床研究
6、赤血球基礎研究前臨床研究臨床研究
7、造血幹細胞基礎研究・前臨床研究臨床研究
8、心筋基礎研究・前臨床研究臨床研究
9、骨・軟骨基礎研究前臨床研究臨床研究
10、骨格筋基礎研究前臨床研究臨床研究
11、内胚葉系細胞基礎研究・前臨床研究臨床研究

細胞を用いる医療とその可能性