2015年9月の記事一覧


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多因子遺伝とは?

 

 ここまでは、1つの遺伝子の変化があれば病気、なければ健康という、すっきりした遺伝でした。対立遺伝子は1個(優性や伴性)か、2個(劣性)がかかわっています。ところで5種類とか10種類(対立遺伝子は10とか20)など、複数の遺伝子がかかわる病気や性質があるのです。というより、1の形質のほとんどは、このようなものなのです。これが多因子遺伝子ですが、環境の影響もありますので、多因子病と呼ぶこともあります。

 

 1つの遺伝子でも病気と健康がわかれるような対立遺伝子の変化は、100%の機能をもつ(正常)か、0%(数%などもありうる)かという、クリアーカットなものです。多因子病にかかわる遺伝子の変化は、それぞれの対立遺伝子の働きが10%低い、20%低い、あるいは逆に10%高いといった、個人差レベルの違いなのです。

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 ある対立遺伝子の働きが10%低くても、発病はしません。ただし同じ多因子病にかかわる5種類の遺伝子について、たまたま働きが悪い対立遺伝子を4個、5個ともっていると、ぎりぎり持ちこたえている状況になります。そこに不摂生が重なると、限度を超えて発病するほかないでしょう。その限度にあたるのが閾値です。

 

 糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病、アレルギー、多くの“がん”が多因子病であることから、注目されているメカニズムです。いずれも数百万人、千万人レベルの患者がいますので、問題が大きいのです。また、身長や知能など正常な形質の多くも、多因子遺伝です。

 

双子でわかる遺伝子のつながり

 

 単一遺伝子病(形質)では、祖父から父へさらに子へなどと、対立遺伝子をたどることは、難しくありません。多因子遺伝のように、それぞれの対立遺伝子の影響が小さいと、対立遺伝子の働きや伝わり方を見分けることは、難しくなります。そのような場合に、遺伝子がからんでいるか否かを見極めるためには、双子を調べるのです。

 

双子には2種類ある

 

 双子には、一卵性と二卵性があります。一卵性は1つの受精卵が発生の途中で偶然に2個に分かれたものです。当然ながら性も同じで、揃って男かそろって女かのどちらかです。

2種類の双子

 二卵性の双子は、同時に排卵された2個の卵子が、それぞれ別の精子によって受精したので、同時におなかの中にいますが、遺伝的には普通の兄弟や姉妹と同じで、すべての遺伝子の平均で50%の共通性があります。半数が男女の組で、男男と、女女の組が1/4ずつです。

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 図で両親はA、B、C、Dという4種の対立をもつと仮定します。図の右側で、双子のうち1人がACとします。他方はAC、AD、BC、BDのいずれかで、確率は1/4ずつです。ACなら2人は完全に一致、ADかBCなら50%の一致、BDなら0%の一致ですので、平均すると50%です。ほかの遺伝子でも同じことで、すべての遺伝子の平均でも50%の一致になります。

 

双子を比較すると遺伝子の影響がわかる

 

 双子の組を集めて形質や病気の有無を比較すると、遺伝子の影響がわかります。一卵性で二卵性より一致率が高ければ、遺伝の影響があり、差がなければ遺伝の影響はないのです。双子は一緒に胎内で過ごし、生まれてからもいっしょに育つので、時代の違いなど環境の影響、いわば雑音に悩まされずに遺伝の影響を知ることができます。

 

 一卵性で別々の育った組を調べることができれば、環境の影響の有無や程度がわかります。遺伝的にはまったく同じですから、少しでも違いがあれば環境の影響です。

 

 一致率の例を紹介しておきましょう。。一卵性と二卵性の間に大きな差があれば、一見して遺伝の影響が強いとわかりますし、差が小さければ遺伝の影響が小さいとわかります。意外なところに遺伝子の影響があると、驚かれた方も多いのではないでしょうか。

 

 具体的にどれだけ遺伝の影響があるのかを知るためには、遺伝率を計算します。一卵性と二卵性の組を集めて、それぞれの種類の双子について、たとえば身長の分散を計算し(標準偏差の計算に使う分散です)。得られた値(二卵性の分散はDZ、一卵性の分散はMZ)から(DZ-MZ)/DZを計算すれば、身長の遺伝率が得られます。

 

 一卵性の組の間にまったくの差がなければ、遺伝率は1です。その形質は遺伝だけで決まるのです。一卵性と二卵性の間にまったく差がなければ遺伝率はゼロです。


遺伝子で決まる性質や病気


劣性遺伝と優性遺伝

 

 遺伝子は父と母から受け継いだものが対になっています。それぞれが対立遺伝子です。対の両方が揃った場合にかぎって表に出るのが劣性遺伝です。ABO式血液型でいえばO型です。

 

 他方、AやBの対立遺伝子は必ず表に出ますので、常染色体声優性遺伝(以下、優性遺伝)です。劣性の形質は、別に性質が劣っているという意味ではなく、対の片方だけでは表に出ないという意味です。酵素の遺伝子の異常は、ほとんど劣性遺伝になります。メカニズムをみましょう。

 

劣性遺伝のメカニズム

 

 ある酵素の遺伝子について、正常な対立遺伝子をA、半分ほど欠けて酵素をつくれなくなった対立遺伝子をaとしましょう(血液型とは関係のない記号です)。A対立遺伝子を揃ってもつAAの人は、当然ながらまったくの正常です。aaの人は酵素をつくれないので、その酵素が分解すべき物質(気質)が体内にたまるか、または気質に酵素が働いてできる産物が不足するか、いずれかの理由で病気になります。

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 Aaの人はどうでしょうか。それぞれの体内の中で、A対立遺伝子は酵素をつくりますがaはつくれませんので、正常な人の半分の酵素ができます。人の体にはゆとりがありますので、酵素の量が半分あれば日常の生活にまったく問題はなく、病気になりません。このように正常な対立遺伝子を隠している人を、保因者と呼びます。

 

 なお、AAやaaのように、同じ対立遺伝子が揃っている人をホモ接合体(以下ホモ)、Aaなど違う大尉率遺伝子を持つ人をヘテロ接合体(以下ヘテロ)と呼びます。つまり、ヘテロが保因者になるのが劣性遺伝です。

 

 ちなみにABO式血液型の遺伝子は、9番染色体に乗っています。この遺伝子は血液型を決める大きな分子に、小さな化合物を付け加える酵素の遺伝子なのです。A遺伝子とB遺伝子がつくる酵素は、付け加える化合物がわずかに違います。O遺伝子では酵素機能を失っているため、なにも付け加えられないのです。

 

優性遺伝のメカニズム

 

 優性遺伝のメカニズムが、いくつか知られています。一つは異常な対立遺伝子の産物の影響が強く、正常な産物を圧倒してしまう状況です。ハンチントン病の遺伝子には、CAGという3つの塩基が繰り返した部分があります。ハンチントン病の患者では、この繰り返しが大きく延長しています。

 

 CAGはグルタミンというアミノ酸の情報なので、患者の遺伝子産物ではグルタミン・グルタミン・グルタミンという繰り返しが大きく延長しています。するとその遺伝子が活動している神経細胞は、アポトーシス(細胞の自殺)を起こして死んでしまいます。正常な対立遺伝子の産物があっても、細胞自体が死んでしまうのでは主部になりません。

 

 もう一つのメカニズムは、遺伝子産物がそのままでは機能をもたず、いくつか集まることで機能があわられる場合です。つまり、産物はサブユニットにすぎないのです。正常な産物をn、異常な産物をNとしましょう。優性遺伝では、表に出る対立遺伝子を大文字で書く習慣です。

 

 Nとnはそれぞれの細胞の中で同じ量だけつくられます。nがそのまま働くことができれば劣性になるのですが、Nもnもあくまでサブユニットで、そのままでは働けません。これらが2つ集まって機能のある最終産物ができるとしましょう。NN、Nm、nnは、順列組み合わせで1:2:1の割合になります。

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 nnは正常、NNは異常な最終産物で機能はありません。問題はNnです。2つのサブユニットがひものようにより合わされて、ロープができると考えてみましょう。Nは異常なのでしなやかに曲がることができず、Nが1本でも混じると、正しい構造のロープができないのです。つまりNNもNnも働かず、まともなのはnnだけですから、1/4しかありません。これではさすがに不足して、発病するのです。つまり、ヘテロが保因者にならず発病するのが優性遺伝です。

 

 プロコラーゲン線維のロープにカルシウムが沈着して骨ができますが、骨形成不全症の中には、このようなメカニズムによる優性遺伝の病型があります。またサブユニットが3本集まって最終産物をつくる場合もあります。そうなると、正常なnnnは、全体の1/8しかありませんので、発病は間違いありません。対立遺伝子は、異常なNをつくるくらいなら、なにもつくらないでいてくれるほうが、悪影響が少ないのです。

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伴性遺伝とは?

 

 血友病やいわゆる赤緑色盲(色覚異常)の患者は、男性ばかりです。女性の患者は、ごくごく珍しいのです。これらは、病気の原因となる遺伝子が、X染色体に乗っている伴性遺伝です。

 

 性染色体は女性ではXが2本、男性ではXとYが1本ずつです。X染色体上に1/1000の割合で見つかる対立遺伝子の異常なら、Xが1本だけの男性は1000人に1人が患者です。他方、女性の2本のXがそろって異常になる閣率は、その2乗なので100万分の1です。男性に1万に1人の病気なら、女性では1億に1人です。女性の患者を見かけないのも当然でしょう。

 

 ところで女性の2本のXのうち、1本だけが異常の場合には、患者ではなく保因者になります。保因者の女性から男の子が生まれる条件を考えましょう。X染色体上の正常な対立遺伝子Hと、異常な対立遺伝子hのいずれが子に伝わるかは50%の確率ですから、平均して男児の半数はhを受け取って患者、半数はHで正常になります。女児はHを受け取ればまったく正常、hなら保因者になりますが、やはり50%ずつの確率です。

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 男性が患者の場合には、1本しかないXがhを乗せていますから、Xを受け取る女児はすべて保因者、Yを受け取る男児はまったく正常になります。したがって、父から息子に伴性遺伝の形質が伝わることはなく、もし伝わればそれだけでXとは無関係と判定できます。

 

伴性遺伝のメカニズム

 

ここまで書くと、「伴性遺伝と同じだ」という声が聞こえてきそうです。実はちょっと違うのです。女性のXのうち1本は、胎生の十数日に不活性化します。「それなら、Xが1本の男性と同じではないか?」というのは、もっともな疑問です。女性のどちらのXが不活性化するかは、その時点で細胞ごとにランダムに決まります。HHやhhの組み合わせなら、どちらが不活性化しても同じですが、Hhはどうでしょう。

 

 2本のうちHを乗せたXが不活性化した細胞を見てみましょう。正常なHが不活性化しますので、その細胞の遺伝子産物の活性はゼロです。一方、hを乗せたXが不活性化すると、Hを1本含む正常な男性の細胞と同じで、100%の活性になります。つまり、活性が0%と100%の細胞が同じ数だけできます。平均すると50%ですから、発病を免れて保因者になるのです。

 

ミトコンドリアが決める母系遺伝

 

 母系遺伝というと、伴性遺伝とまぎらわしい感じですが、まったく別ものです。核の中にある染色体ではなく、細胞質に散らばっているミトコンドリアの問題です。ミトコンドリアには小さな環状のDNA(16000塩基対ほど)が含まれていて、エネルギー代謝などにかかわる遺伝子がいくつか働いています。

ミトコンドリア

 太古の時代、地球の大気には酸素がありませんでした。原始的な生命は、海底から噴き出す硫化物などをエネルギー源としていたのです。28億年前ほど前にラン色細菌(シアノバクテリア)が突然変異を起こし、太陽光をエネルギー源に使えるようになりました。太陽の光は無尽蔵なのでシアノバクテリアが大発生して酸素をつくり、それまで嫌気的だった大気が、大量の酵素を含む現在の姿になったのです。

 

 酸素は当時の生物にはきわめて有害で、そのため絶滅した生物もかなりありました。真核生物(細胞中に核をもつ生物)のごく一部は、酸素を利用してエネルギーのつくることのできる細菌を細胞内に取り込んで、共生関係をつくることで乗り切ったのです。ミトコンドリアは、共生した細菌の子孫です。ミトコンドリアの遺伝子は、核の遺伝子とは異なる遺伝記号を一部に使うなど、ユニークなところがありますが、起源を考えれば、当然でしょう。40億年の生命の歴史音うちで、20億年ほど前の話です。

母系遺伝

 細胞質は卵子のものがそのまま子に伝わるので、ミトコンドリアは母から子へ伝わります。生死のミトコンドリアは尾の根元に並んでいて、運動のエネルギーを供給していますが、受精に際しては頭部だけが卵に入りますので、子には伝わりません。母からは、男女を問わず、すべての子に伝わります。したがって祖母、母、娘と女性でつながっていれば、何世代でもそのまま受け継がれますが、間に息子が入ると、孫には息子のお嫁さんのミトコンドリアが伝わることになります。

 

 母系遺伝で伝わる病気としては、ある種の糖尿病や、網膜の変化で失明するレーベル視神系委縮症などがあります。


遺伝子で決まる性質や病気


子どもと無限の可能性

 

 世の中には、心と精神の問題に遺伝や遺伝子がかかわっていることを、認めたくない人がいるようです。学校の先生のうちにも、“遺伝子の影響など絶対にない”と主張する方がいます。

 

 もちろん「この子はダメだ」などと簡単に決めつけては、教育は成り立ちません。あくまでその子の可能性を信じて粘り強く接する必要があります。そのための心構えとして、教育者は“子どもは無限の可能性がある”とと信じる必要があるのです。だからといって「すべての子どもは無限の可能性を持つのだから、遺伝子の影響はありえない」と主張するのは、まったくのナンセンスです。

 

 遺伝の影響を紹介しましょう。知能指数(IQ)についても、親と子の間に身長の場合と同じような関係があることがわかっています。また、夫婦のIQを調べると、遺伝とは関ありませんが、わりと値の近い2人が夫婦になる傾向があるようです。

 

 双子の研究によっても、一卵性の双子のIQの差(5.9)は、二卵性の双子(9.9)や同胞(9.8)より小さいことがわかっています。なお、同じデータで、別々に育った一卵性の組の間の差は8.2ですから、環境の影響があるのは事実ですが、あまり大きくないといえるでしょう。遺伝的には50%の共通性を示す二卵性の双子と同胞の組でほとんど同じ結果が出ていることからも、このデータの信頼性の高さが推定できます。

 

 最近になって、IQを高める遺伝子の型が見つかるなど、これまで遅れ気味だった心の問題も大きく動き始めました。大勢の人の前に出るとパニックを起こし、何にもできなくなる「パニック障害」も、原因に遺伝子がかかわることがわかりました。ストレスにさらされると、神経系や内分泌系のさまざまな遺伝子の活動が高まります。DNAチップの技術を使うことで、ストレスの程度や反応の状態をまとめて調べる方法ができた、というニュースもありました。

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 兄弟姉妹(同胞)の数が合計で2~3人の場合が、IQの平均が最も高いというデータもあります。親がなんでも手取り足取りで面倒を見る1人っ子より、お互いに喧嘩をしたり、仲直りしたり、ゆずりあったりという生活のほうが、必要に迫られて工夫するなど知能の発達にプラスになるのでしょう。同胞の数や生まれた順番は、遺伝子とは関係ありません。つまり、知能の発達には、環境の影響もあるのです。

 

好奇心の遺伝子が冒険に誘う?

 

 中南米の先住民は、ABO式血液型がOしかありません。彼らはシベリアからの移住者の子孫ですが、移住に成功して子孫を残した人たちがきわめてわずかだったのでしょう。全員が血縁関係にある大家族なら可能性はありますが、血縁関係にない何十人もの人がすべてO型ということは、ありえません。

 

 2万年ほど前の最後の氷河期には、海面は現在よりも120mほども下がっていました。ロシアとアラスカを分けるベーリング海峡(現在の水深は42m)のあたりには、広大な草原が広がっていたのです。ただし、その先のカナダは巨大な氷河に覆われていて、先には進めません。氷河期が終わりに近づいて氷河が縮小し、北から南へ抜けるわずかなすき間ができ、しかも上昇しつつある海面に海峡が水没する前、という実に微妙なタイミングで通り抜けることに成功した、わずかな人たちの素村が先住民なのです。

 

 全員が死に絶えてもまったく不思議のない、厳しい状況でした。彼らを調べると、こうきしんが強いタイプの遺伝子の頻度が非常に高いというのです。アジアに残った人に比べて、新天地を求めて冒険に乗り出したグループの好奇心が強いというのは、納得できる話です。日本人は白人に比べて、好奇心の強い遺伝子が少ない、という説もあります。

 

性格はどこまで遺伝で決まる?

 

 性格のように、個人差をはっきり数字で表すことが難しい分野では、家系を調べても、伝わり方や遺伝の影響の大きさはわかりません。

 

 そのような場合には、双子を比べるのです。一卵性の双子は、受精卵が二つに分かれることで生まれるので、2人は遺伝的にまったく同じです。二卵性ではh2個の卵子がそれぞれ別の精子で受精しますので、2人は遺伝的に50%の共通性があり、兄弟や姉妹と同じです。また別々の環境で育った一卵性の双子を調べれば、、2人の違いはすべて環境のせいですから、はっきりと環境の違いがわかります。

 

 ブシャード(T.J.Bouchard Jr.)による大規模な双子の研究によって、性格はほぼ2/3が遺伝によって、残る1/3は育児など環境によって決まることがわかりました。

 

 赤ん坊の時から別の家庭で育てられた一卵性の双子が、何十年かぶりで会ったのに、しぐさや趣味があまりに似ているので研究しているほうが驚いた、などという例がたくさん見つかったのです。なお、上記の2/3というのは、遺伝が原因で占める割合です。

 

育児によっても性格は変わる

 

 このような話をすると、しばしば「2/3まで遺伝子で決まるなら、育児に努力しても意味がない」という反応が返ってきます。しかし、1/3というのは、ずいぶん大きな数字です。親にできることは多いのです。

 

 たとえばなんでも子供のいうなりに甘やかして育てると、子供は自分のわがままが通るのがあたりまえ、と思うようにまります。徳川時代の大名の子ならともかく、学校であれ社会であれ、自分の思い通りになんでも動くはずはありません。状況に合わせていろいろ工夫したり努力することも、自分のわがままをおさえて我慢することも、幼いことからまったく経験したことがなければ、できないでしょう。子供に我慢することを教えるのは、子供自身のためです。

 

 他方、子供のうちからなんでも禁止して、むやみに叱るだけでは、子供は伸びません。だめなことはあくまでだめですが、お手伝いをしたり、がんばったときは褒めるのがベストの対応でしょう。昔から言われている「3つほめて、1つしかればいい子に育つ」というのは妥当な線だと思います。

 

 ところで、赤ちゃんをまったく放置して相手をしないでいくと、キレやすい子になるという報告があります。抱き上げるのはもちろん、時々顔を見せて「バー」などとあやすだけでも、なにもしないのとは違うのです。小さな赤ちゃんでも、まわりとのかかわりが意外にあるようです。


遺伝とはなにか


劣性の形質は隠れている

 

 遺伝病の有無や血液など、遺伝的に個人差のある性質を、形質と呼びます。遺伝子で決まる性質、ということです。劣性とは、ある形質を決定する対立遺伝子が対にならないと、その形質が表に出てこないということです。正確には常染色体性劣性遺伝ですが、長いので劣性と書きます。劣性の反対が優性で、対立遺伝子が1つでも、形質が表に出てきます。

優性遺伝と劣性遺伝

 ABO式血液型が父はAで母がBなのに、子がOという場合を考えてみましょう。父の遺伝子型はAO、母はBOで、子はOOです。O対立遺伝子は劣性なので、父と母のOは、優性のAおよびB対立遺伝子の陰に隠れているのです。AとB対立遺伝子は優性なので、必ずそれらをもつ個人の血液型に反映されます。どちらか片方を持つ場合には、AかB型、両方を持つ場合にはAB型になります。

 

突然変異で思わぬ病気に

 

 親にない形質が子に現れるメカニズムには、突然変異もあります。突然変異とは、遺伝子に新たに起こる変異のことです。たとえば父の精子ができるときに、対立遺伝子の一つが変化して、それが受精することで子が病気(病気以外の形質でも同じ)になる、というパターンです。卵子でも同じです。遺伝子に新しく起きた変化ですから、当然ながら父母の家系にはそのような病気は見つかりません。

 

 有名な例があります。英国の王室で、ビクトリア女王の孫などのうちから、血友病の患者が10名も見つかったのです。英国の王室から皇女が嫁入りしたのですから、相手はいずれも王国の皇帝や皇太子です。跡継ぎが生まれて喜んでいたら、次々に血友病で倒れたのですから、たいへんな騒ぎになりました。

 

 子孫から10人も患者が出ているので、女王が血友病の原因遺伝子を隠し持つ“保因者”であることは、間違いありません。しかし王室には、それまで患者はまったくいませんでした。血友病は伴性遺伝ですから、保因者の女性から生まれる男児の、平均して半数が患者です。子供の数が多かった時代に、保因者が隠れていた可能性は、考えられないのです。

 

 専門家は、女王が父のケント公エドワードが52歳のときに生まれたことに注目しています。精子に含まれる遺伝子の突然変異は、年齢とともに増えるのです。精子や卵子で新しく起きた突然変異であっても、精子(卵子)を経て当人に伝わると、体内のすべての細胞が変異をもつことになります。そうなると当人がつくる精子や卵子もその変異を受け継ぐため、家系内を伝わる遺伝病が始まるのです。

 つまり、親の持つ対立遺伝子に限らず、ともかく精子や卵子を経て子に伝わるのが遺伝病であり、遺伝形質なのです。

遺伝病と遺伝子病の違い

 

 皮膚や胃の細胞のどれか一つに遺伝子の変化が起きて、その細胞が増えてがんになったとします。精子や卵子とは関係ないので、遺伝子の変化が当人から子に伝わることはありません。したがって、遺伝病ではありませんが、がん細胞には遺伝子の変化が起きています。そこで、このような病気を遺伝子病と呼びます。


遺伝とはなにか


世代を越える染色体の流れ

 
 子供には父と母から精子や卵子の形でゲノムが伝わることは、すでに説明しました。たとえば、父の染色体を見ると、祖母からの23本と祖父からの23本が遂になっています。
 
 さらに父から子に伝わる場合を考えましょう。たとえば図の左端の染色体について、子には対のうち祖父からのを伝えるのか、祖母のを伝えるのかという2つの可能性があります。中央と右の対についても同様です。それぞれの対について2本のうちの片方という選択ですから、3対なら2の3乗で、図のように8種類の精子ができます。
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 たとえば、長女には祖父からの1番、祖母からの2番、祖母の3番が伝わったとします。次女が祖父からの1番を受け取れる可能性は1/2です。祖母からの2番も1/2、3番も1/2と続き、22番と性染色体まで、長女と同じ組み合わせの23本の染色体を父から受け取る確率は、2の23乗ですから840万分の1となります。
 
 つまり、祖父母の世代までさかのぼって染色体の由来を考えると、兄弟姉妹がまったく同じ組み合わせの染色体(遺伝子)を受け取る可能性は、ゼロに近いのです。
 
 ソフト祖母は他人どうしですから、同じ染色体の対でも少しずつ内容が違います。たとえば9番の染色体には、ABO式血液型の遺伝子があります。A、B、Oの3種類の遺伝子のいずれかが、9番染色体の同じ位置に含まれているのです(このように同じ位置にある異なる遺伝子を対立遺伝子と呼び、それらの組み合わせを遺伝子型と呼びます)。そして、祖父がAB型、祖母はO型(遺伝子型はOO)で、母がA型(同AO)とすると、長男にはAが伝わり、次男にはOが伝わるという違いが起きるのです。
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 1組の対立遺伝子を見れば、2人とも同じ組み合わせということはあります。しかし、すべての染色体の対立遺伝子について同じ組み合わせとなると、可能性はほとんどゼロということになります。
 

ゲノムの多様性を増やすキアズマ

 
 父や母の染色体数46の細胞(精原細胞または卵原細胞)から、染色体数23の精子や卵子をつくるステップを減数分裂と呼びます。その場合に、ある精子(卵子も同じ)に入る染色体については、前記のように多彩な組み合わせがありますが、さらに多様性を増やすメカニズムがあります。キアズマ(交叉)です。父(または母)の減数分裂で、祖父からと祖母からの染色体が2倍の太さになってから対をつくり、互いに染色体の一部を交換するのです。
 
 1番から22番までの常染色体の全長あたりで、平均50か所ほどのキアズマができます。いちばん大きな1番の染色体で平均4か所ほど、最もちいさな21番や22番では1か所ほどです。たとえば21番の染色体は、祖父または祖母の21番がそのまま子に伝わるのではなく、片方の端から途中(キアズマの位置)までは祖父の21番、そこから先は祖母の21番といったぐあいに、いわば切り貼りした状態で子に伝わります。染色体の由来に加えて、キアズマが多様性をさらに高めるのです。
 
 ただし、兄弟姉妹が受け継いでいる遺伝子は、同じ父母から伝えられたもので、ほかから伝わることはありません。祖父からか祖母からか、という選択があるだけで、他人の染色体が入り込むわけではありません。
 
 そのため、すべての染色体(遺伝子)の平均で、50%の共通性があるのです。祖父母の代から染色体の由来まで見ると多様性がありますが、それでも他人どうしと比べれば互いにずっと似ているのです。

遺伝とはなにか