2015年8月の記事一覧


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 転んで足をすりむいた程度なら、多少血がにじんでもやがてその血は止まるし、かさぶたができそれが取れてもとの皮膚に戻ることを、多くの人は「あたり前」の現象だと感じています。しかし、このあたり前に思える現象も、注意深く考えれば決してあたり前ではないことがわかります。なぜなら、傷の深さが数ミリ、範囲が数センチ程度の「かすり傷」程度であれば、このあたり前の現象は起こるでしょう。しかし、その傷の範囲がもう少し深く、広くなるとどうなるでしょうか? それでもまだ大丈夫ですが、それより深くなれば今度はどうなるのか・・・・。

 

 こう考えると「あたり前」の現象は、無制限・無条件に起こるわけではないということが理解できます。皮膚の再生というあたり前の現象が起きなくなる限界。この限界が、われわれヒトという種がもつ表皮幹細胞の性能限界と考えると、幹細胞が理解できるでしょう。この性能限界を超えた「すり傷」、たとえば深さ5ミリ、範囲はすべての皮膚の「損傷」を受けたヒトは、再生が追いつかず、やがて人体そのものも死に至ります。

 

 この例で、皮膚の再生の役目をになっているのが表皮膚幹細胞なのです。表皮膚幹細胞は、傷ついたり古くなった表皮細胞を入れ替えるために新しい表皮細胞をつくっています。このように一般的に幹細胞は、新しい臓器(表皮)を無からつくりだす能力(多分化能)をもっています。そしてその能力は細胞分裂をしても失われることはありません。つまり幹細胞は、この再生能力と細胞分裂を経て新しい臓器(表皮)をつくっている一方、その再生能力を維持できる能力(自己複製能)を合わせ持っている細胞なのです。ちなみにもっと広い意味での幹細胞という名の名前は、細胞系譜(受精卵から成体に至るまでの各細胞の文化の道筋を明らかにしたもの)の幹になることから名付けられました。この幹細胞ですが、実にさまざまな種類があります。

 たとえば傷ついた皮膚を再生させるために働く幹細胞は、皮膚しかつくりだすことはできません。こうした範囲はせばまるものの臓器や組織を再生させる能力を保ったものを体制幹細胞といい、表皮系幹細胞のほか、造血幹細胞神経幹細胞筋肉幹細胞肝臓幹細胞などが知られています。

幹細胞の多分化能


iPS細胞について, 人体を構成する細胞の特殊性とは?


 これまで受精卵という言葉を使って説明してきましたが、受精卵にはいったいどのような能力が備わっているのでしょうか?古くは、受精卵の中に子孫の雛形(小さな人の形をしもの)があらかじめ存在し、発生はそれが大きくなる過程であるという「前成説」が唱えられた時代もありました。しかし研究が進み、18世紀には、そのようなものが存在しないことが明らかとなり、発生が進むにつれて次第に形ができてくる後成説という考え方が生まれました。その後、顕微鏡を使用して細胞レベルの観察が行われるようになり、徐々に詳細が明らかになってきました。

 

 現在においては受精卵とは、卵生殖をする生物種の雌雄の配偶子である精子と卵が結合したもののことをいいます。精子が卵を保護している透明帯を呼ばれる卵黄膜に結合すると、精子頭部の先体胞内にあるさまざまなタンパク質分解酵素が放出されます(これを先体反応といいます)。このとき卵黄膜上にある精子の結合部分が分解されて、多くの精子が卵に結合するのを拒否できるようになると考えられています。こうして最初に結合した精子のみが受精できる状態となり、結合した精子はタンパク質分解酵素の作用で卵核に到達するための道をつくっていきます。やがて卵核に到達すると精核は卵核と合体して受精卵になります。このようにしてできた受精卵は、非対称性の細胞分裂を繰り返して胚となり、そこから生物の個体が発生していきます。個体のスタート地点であるといえるでしょう。

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受精の仕組み

 さらに受精卵は個体のスタート地点であるばかりでなく、そこにははかりしれない能力があります。サイトのメインテーマである再生医療や細胞医療の研究は、この能力を利用した技術といっても過言ではありません。たとえば、偶然になんらかの原因で受精卵が2つに分かれてしまった場合、まったく同じ人間が2人できます。これが一卵性双生児になります。同じ原理で、一卵性の4つ子もアメリカで誕生し話題になりました。これらの事実は初めから初めからそこに4人いたという前成説だと比較的単純ですが、後成説、すなわち現在では、条件さえ整えば何人も同じ人間(クローン人間)になる能力を保っているという事実が明らかになってくるのです。


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