2015年8月の記事一覧


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 京都大学の山中伸弥教授の研究グループが開発した万能細胞のiPS細胞は倫理的問題がクリアできる可能性が高いことから、ES細胞研究やクローン研究を凌駕する数のグループ研究が世界中で進められています。ここでは現在、iPS細胞の研究がどこまで進んでいるのかをお話します。

 

 2007年11月、人間の皮膚から製作されたiPS細胞によって患者と遺伝情報が同じ細胞が作製でき、拒絶反応のない移植医療実現の可能性が見えてきました。2010年3月、奈良県立医大の研究グループが、マウスのiPS細胞から腸をつくる、すなわち万能細胞であるiPS細胞から臓器をつくることに世界で初めて成功しました。この成果から、治療が難しい炎症性の腸疾患や先天的な運動異常症などの病態の解明、治療法の開発が期待されています。

 

 2011年8月、京都大学でiPS開発者である山中教授とは別の研究グループがiPS細胞を使って精子をつくりだし、それを卵と体外受精させてマウスを誕生させることに成功しました。これによって、発生メカニズムの解明、不妊症の原因研究や研究などの可能性がでてきましたが、一方で、ヒトの生殖細胞製作につながる技術であることから倫理的問題が生じると考えられています。

精子作製

 このように、再生医療に向けた研究が進む一方で、医療とはまったく別の目的にiPS細胞技術が使われだそうとしています。性別に関係なく精子や卵子を作成したり、生殖能力を失った個体から精子や卵子もつくれるiPS細胞の特性を利用し、絶滅危惧種の人工的な繁殖に向けた検討もされているそうです。

 

 2011年9月、アメリカ・カリフォルニアのスクリップス研究所などのグループが、世界に7頭しか生息していないとされているキタシロサイのメスの皮膚から、また西アフリカで生息数の現象が続くサルの一種マンドリルの死んだオスの細胞からiPS細胞の作製に成功しました。

 こうした万能細胞を使って、医療の世界だけではなく、種そのものの存続さえ人類でコントロールできる技術の開発が、世界中のさまざまな研究所で取り組まれているのです。


細胞を用いる医療とその可能性


 現在、再生医療においては、臨床研究自由診療が実施されています。自由診療は保険診療と異なり、臨床研究を実施していなくても医師の裁量のもと治療することが可能です。そのため、十分な効果が得られていない場合や、安全性が十分確認できていない場合でも治療が実施できてしまうという欠点があります。このため臨床研究の行われていない自由診療は行うべきではありません。また、他国で十分や臨床研究が行われても、第三者による監視機関である倫理委員会は必須です。

 

 現在、多くの医師が培養皮膚を用いた治療を自由診療にて提供していますが、これはアメリカの臨床研究がひととおり終了し、有効性と安全性が認められたものです。一部の自由診療を行う医療機関では、安全と有効性の確認のないまま実施するという現状も決してめずらしいことではなく、われわれの周りに存在しています。

臨床研究

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 医療とは違いますが、「◯◯ががんに効く」という広告をよく見かけます。しかし、実際にはなんの効果も実証されていないという場合がよくあります。医療に携わる人間は、常にモラルを守ることが必須であり、なによりもまず患者さんが安心して治療を受けることができ、健康を維持して幸せに暮らせるようにすることが重要であると考えています。そのためには、副作用のない、もしくは副作用の少ない安全な治療であることを証明するだけではなく、科学的根拠にもとづく疾病の原因や病態を解明していく必要があります。さらに治療においてどのような効果があるのかを示していくようにしていくことも必要です。そのために、臨床研究をしていくことは重要であると思われます。

がん広告

 臨床研究について調べると、「人を対象として用いて、疾病の予防方法、診断方法および治療方法の改善、疾病原因および病態の理解ならびに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学研究」という説明が見つかります。この説明にあるように、「患者の生活の質の向上」のためには、臨床研究を実施することが重要であり、それが医療の進歩に欠かせないといえます。そして臨床研究を実施するにあたっては、なによりも「患者の生活の質の向上」を優先的に考えていくことが重要です。


細胞を用いる医療とその可能性


 すべての事柄は表裏一体、陰と陽、完全なものなどありません。そういう観点からすれば、自然科学の進歩も例外ではありません。自然科学が私たちに数え切れないほどの利益を提供しているのはまぎれもない事実であり、到底その恩恵を少ない紙面で書くことなどかないません。一方で環境問題などの不利益も生じているのも事実です。原子力発電所は私たちに電気というエネルギーを、ほぼ無から有をつくるがごとく無尽蔵に供給してくれますが、ひとたび事故が起これば放射能汚染という重大な危険性をはらんでいます。これと同様に、万能細胞も再生医療、新薬の開発など、自然科学の重要な1分野である医学に大きく貢献していますが、次のような問題があるのも事実です。

 

 ES細胞においては倫理的な問題があります。ヒトの生命の萌芽である胚を壊してつくるということです。さらいES細胞のもとを取りだすためにヒトクローン胚をつくることを認めてしまえば、クローン人間の生産につながりかねないという危惧があります。「ヒトの生命の萌芽である胚を壊してつくる」という問題をクリアしたと考えられるのがiPS細胞ですが、このiPS細胞においても「クローン人間の生産」という倫理問題は常につきまとうでしょう。

 

 さらに実用に際して安全性という問題が常につきまといます。iPS細胞発明の当初、がん遺伝子を導入して作製したこと、遺伝子導入に用いるウイルスががんを引き起こす可能性があるなどの問題がありました。しかし、2008年2月に京都大学のグループが、がん遺伝子を用いないでiPS細胞を作製する技術を確立してこの問題を解決。さらに2008年10月には、同じく京都大学のグループがウイルスを使わない遺伝子導入方法を開発し、1つずつ安全性を高めつつあります。もちろんこれのみで安全性を完全にクリアしたわけではありません。医学には自然科学でありながら、実験科学という側面がとりわけ強いため、やってみなければわからない、時間が経ってみないとなんともいえない、100%は存在しない「不確実」という宿痾(しゅくあ)を、ほかの自然科学以上に内包しています。

iPS細胞の作製

 ただ、私たちは進み続けなければなりません。一番のリスクはリスクを恐れて立ち止まることです。


細胞を用いる医療とその可能性


 「夢の新薬」。人それぞれの考えがあるかもしれませんが、私は世界に数えるほどしか患者がいない難病に対する薬を夢の新薬だと考えています。がんに対する治療薬でさえいまだ十分効果の高いものがない現状では、万が一、治療薬ができれば、それを夢の新薬というのかもしれません。しかし、がんに対する治療薬は、現在、世界中の大学や企業で研究が進められており、実現するのも時間の問題かもしれません。すなわち私にとってがんに対する夢の新薬は、近い将来かならず実現できる「実現可能の新薬」です。

 

 それよりもむしろ、利益を目的とする企業が参入しづらく、患者不足で研究が十分進んでいない難病は、治療薬が開発されるのがいつになるのか、本当に開発されるのかすら、まったく予想できません。私の知り合いにも呼吸器の難病を患っている人がいます。原因不明で薬がないため、食事制限で対処している日々を過ごしているのです。

 

 世界中には、さまざまな難病で苦しんでいる人がいます。この難病に対する治療薬ができれば、それこそまさに夢の新薬といえるでしょう。そこで、もし難病の治療にiPS細胞という万能細胞が使えるのであれば、研究材料を十分確保でき、治療薬の開発が飛躍的に前進するのではないかと思われます。

新薬の開発

 具体的には、難病の患者からiPS細胞を作製し、それをさまざまな組織の細胞に分化させたあと、普通の細胞と比較することで発症の原因を探ることができ、薬剤を開発することが可能です。

 このように万能細胞を用いることで、これまで開発が進まなかった難病の患者の治療に大きく貢献できると考えられます。まさに夢の新薬の実現は近いといえます。

新薬


iPS細胞について, 細胞を用いる医療とその可能性


 日本は世界一の長寿国といわれています。医療や公衆衛生などの環境の向上によって寿命は格段に上昇し、100歳を超えるヒトが増えてきたのも事実です。そして、3大死因と呼ばれる「がん」「脳卒中」「心筋梗塞」が完全に克服されれば、日本人の平均寿命は120歳まで伸びるともいわれています。

 

 このような状況を見ると、不老不死も夢ではないように感じてきます。21世紀はバイオの時代ともいわれているように、バイオテクノロジーが飛躍的に進歩し、なかには常識をくつがえす大きな発明もなされました。中国の秦の初代皇帝、始皇帝は不老不死を求め続けましたが、この先、不老不死は実現するのでしょうか?

 

 細胞が細胞分裂する回数には限界があり、これはテロメアというDNA配列が分裂のたびに短くなっていることが原因の1つであるということをお話ししてきました。そこでこのテロメアの長さを短くすることなく維持できれば細胞老化が起きなくなり、細胞の集合体である生命体も不老不死になるかもしれません。

 

 テロメラーゼという酵素は、不死化細胞であるがん細胞中で発見されました。いったん短くなったテロメアをふたたび伸ばす酵素で、ひょっとすると不老不死解明のきっかけになるかもしれません。しかし正常細胞からはテロメラーゼだけで不老不死が実現することはないでしょう。

 そのほか、正常細胞にはあるが不死化細胞にはないモータリンと呼ばれるタンパク質の存在も明らかになってきました。老化した細胞にモータリンの働きを抑える中和抗体を注入する実験を行ったところ、テロメアが長くなり、老化してしまった細胞がふたたび細胞分裂を始めたそうです。その後、不死化細胞の中にもモータリンが発見されました。正常細胞では細胞質に散らばっているモータリンが不死化細胞の核の周りだけにあり、アミノ酸組成も違うことが明らかとなりました。正常細胞のモータリンのほうをモータリン1、不死化細胞のほうをモータリン2として区別しています。モータリン1はテロメラーゼの活性を抑えているとも考えられており、これも人類の不老不死へのあくなき欲求が成し遂げた成果です。しかし、不老不死はどんなに科学が発達しても不可能かもしれません。


iPS細胞について, 細胞を用いる医療とその可能性